川北英隆のブログ

負債の評価益の意味2

昨日のコメントに少しばかり追加しておく。ブログにしては長くなりすぎたので。
第一に、市場価格に基づいて負債と資本の「時価」を定めたとすれば、それによって企業価値の大部分が決定される。この事実を指摘する必要がある。これが「時価会計」の一つの究極である。証券アナリストに企業の会計担当者が追随すると書いた意味は、ここにある。
この場合、少し考えると明らかなことだが、大いなる疑問が新たに生じる。つまり、証券アナリストの仕事とは何なのかに立ち戻ることである。証券アナリストは、会計担当者が作成して役員会で決定した情報を分析することにより、企業価値と証券の価値を判断し、投資の是非の意思決定を促している。そうだとすると、何か論理的に変だと気づきはしないだろうか。会計担当者が証券アナリストの判断に依存して会計情報を作成し、その会計情報に基づいて証券アナリストが投資判断を下すことへの疑問である。
結論は、この意思決定の流れはトートロジーにすぎない。実のところ、負債としての社債の時価評価を行い、それを会計情報として用いた場合、同様のトートロジーに陥っている。全面的なトートロジーでないから、会計関係者が気づいていないにすぎない。
第二に、負債や資本の時価から完全に離れて、事業資産の価値を企業の会計担当者が算定できないのかという問題である。この事業資産の価値の算定こそ、まさに証券アナリストの世界である。外部の証券アナリストでさえ価値の算定が可能なのだから、企業の内部情報に通じている会計担当者に不可能なはずがないと思える。そして、適当に前提を設定したところで、「そんなの、いい加減な数値だ」とは誰も断固たる批判ができない。だから、企業の階部関係者が関与すれば、前提条件の設定は甘くなり、高目のもしくは現状追認的な事業資産の価値しか算定されないのである。しかも、それが市場での評価と一致するとは考えられず、結局、貸借対照表がバランスしない。そこを無理やりに合わせなければならないと思える。
企業会計に原則となりつつある時価会計とは何なのか。まず、この点から議論することが正しいアプローチである。

2009/06/03


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