川北英隆のブログ

増税の効果は

5/27の日本経済新聞のコラム「大機小機」の増税賛成論に関して、ではアンタはどう考えるんやと問われたら、次のように答えておきたい。
第一に、今のままでは日本の財政が破綻するのはほぼ確実である。残念ながら日本経済の回復力は弱いから、現在の税制では税収の増加の速度よりも通常の歳出、国債金利の支払い、福祉のための支出の増加速度のほうが早いだろう。もちろん、景気が回復する過程では赤字が縮小したように見えるものの、その後の景気悪化の過程で赤字が急速に増大すると考えられる。
第二に、増税の前に歳出の抜本的な削減が必要である。しかし、政権が弱体化し、政党が分裂と統合を繰り返すだろうから、国民の人気取り的な、歳出を伴う政策の実行が繰り返される一方、本格的な歳出削減には踏み込めないだろう。政府が削減努力をアピールするとしても、事業仕分けに代表される「見世物」に終止するに違いない。
第三に、結局は消費税率の引き上げと法人税および所得税の引き下げをセットにした実質的な増税が不可避となる。追い込まれるわけだ。その時に何が起こるのかである。
まず、この増税によって得られた財源の性格とは何なのか。これまでの国債による借金とは、「将来」の税収の先食いである。つまり、将来の税収で現在の借金の元利金の支払いをまかなおうとしている。増税とは、国債の大量発行によってその将来の税収を思いっきり先食いしてしまったので、仕方なしに一部を「現在」に追加負担してもらおうというだけである。増税によって新たな財源ができたので、その分も足して使えるなんて代物ではない。蛇足だが、増税分が使えるなんて本気で思って使ってしまうと、税収も増えたが歳出も増えるので、発行しなければならない国債の量は減らない。つまり、借金はそれまでと同じスピードで増えるだけだ。
このことは、増税の分だけ民間の可処分所得が減って支出が削減され、一方で政府の支出は増えないから、日本全体の支出が減ることを意味する。結果は景気の悪化である。では、増税はマイナス面だけなのだろうか。
もちろんメリットも考えられる。海外に対して日本の財政の健全さがアピールできるかもしれない。財政が健全になれば、将来の福祉や経済対策に使える財源が増えるから、それを国民が期待して社会全体に明るさが増すかもしれない。最大の効果として期待できるのは、この福祉に関して、「本当に年金を払ってもらえるのだろうか」という現代の国民の不安が解消されるかもしれないことである。
しかし、追い込まれた末の増税は日本経済にとっての大きな賭けだろう。一時的とはいえ景気が悪化し、期待したような増税効果が実現しないかもしれない。また、景気の悪化に国民の不安だけが増幅するかもしれない。増税分以上に国民の支出削減が起こり、経済が大混乱しかねない。
今、増税の検討は遅きに失している可能性が大きい。絶好のタイミングを見計れないまま、負けを覚悟で賭けなければならないなんて、最悪である。責任の所在は現在の政権だけではない。過去の政権もまた、国民の人気取りに終始し、「何とかなる」と思ってきた。そのツケである。

2010/05/29


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