川北英隆のブログ

アイスランドの金融危機

アイスランドといえば2008年の世界金融危機の余波を受けた国家財政破綻を連想する市場関係者が多いだろう。日本の投資家も埒外ではなく、円建て外債のデフォルトによって被害を被った。
最大手のカウプシング銀行が発行した円建て外債は4本、780億円だった。2006年から07年にかけて発行されていた。ところが、2008年9月に第3位のグリトニル銀行が国有化されて危機が表面化し、10月には第2位のランズバンキ銀行とカウプシング銀行も国有化されてしまった。この措置により、国家財政も危機に見舞われた。今回見たところ、とうの昔に完成するはずだった国立オペラハウスは、まだ細部の工事が続いていた。
これらの銀行は海外資金を集め、それを投資する手法で急成長していた。背景には金融業を重要産業にしようという国家政策があったようだ。ちなみに、経営破綻時の3行の総資産(≒負債)を合計すると当時のアイスランドのGDPの9倍を超えていたとされる(その後のアイスランド通貨の下落を考えると、現在ではもっと巨額である)。
豊かな国とはいえ、人口はたかだか32万人である。2008年のGDPは168億ドル、09年は121億ドルでしかない。この経済規模でも、国民1人当たりに直すと、それぞれ5.2万ドル、3.8万ドルである。アイスランドの通貨が大きく下落しているため、この数字だけで比べるのは無理があるものの、国民1人当たりGDPは日本と大差ない。実際にアイスランドを歩きまわって家や車や家電などを見るかぎりでも、日本と差はないようだ。むしろ土地が広いため、豊かな感じさえする。
そのアイスランド全体のGDPを基準にすると、カウプシング銀行の円建て外債780億円は現時点の価値でほぼ10億ドルに相当するから、日本でさえ大量の資金を提供していたことになる。ちなみに、2008年の危機時にアイスランドはロシアから40億ユーロ、IMFから20億ドルの緊急融資を受けた。その金額と比べても、カウプシング銀行の円建て外債の発行規模がいかに大きいのか理解できるだろう。
要するにアイスランドの銀行は財テクを試みていた。1980年代後半の日本と同じである。財テクは一番手っ取り早く大金持ちになれる方法だが、一番簡単に破産できる方法でもある。その事実を無視したか見逃して、アイスランドに大量の資金を貸した者が悪いとも言えるだろう。

2011/05/30


トップへ戻る