川北英隆のブログ

TPP交渉と農業パラサイト

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉への参加を巡って大騒動が巻き起こっている。まだ交渉に参加するかどうかの段階なのに不思議な光景だ。
もちろん、交渉し、合意を目指すのだが。他方で、交渉して合意が得られなければTPPに加わらないという結論もありうる。噂されていたように、交渉するふりだけというのは日本に対する信頼を失墜させてしまうが。
TPPについて客観的に考えておこう。
第一に、TPPは、貿易に多くを依存している日本にとって経済的に大きな意味を有しているということだ。国内人口が減少に向かっているから、なおさら海外に目を向けないといけない。関税において日本が不利な状況に置かれることは、日本国内の生産活動にとって非常大きな不利益でしかない。
第二に、不利な関税によって国内の生産活動が廃れれば、雇用機会が失われる。実際のところ、農業が生計の柱である場合でも、兼業農家が多いだろう。工場での雇用機会が失われれば、農家にとっても大きな打撃となる。
第三に、TPP参加反対の錦の御旗である「食料自給率の維持・向上」の裾がすっかり擦り切れていることだ。つまり、何年間、この錦の御旗を使ってきたのか。その成果が上がっているのかという疑問である。農業政策の抜本的見直しを行わないかぎり、農家の高齢化、人口の都市集中、後継者の体力不足化(機械化が進んだとはいえ、農業にはサラリーマンには想像できない体力が必要)の問題をクリアし、競争力のある農業の樹立が不可能である。その抜本的農業改革のための手立てはほとんど提案されてこなかった。それとも、永遠に手厚い保護政策に頼り、国民に結果として高い食料を食べてほしいとせがむのだろうか。
第四に、食料自給率の維持・向上だけが国としての安全保障の対象ではない。レアメタル問題に象徴されるように、食べるだけでは国民生活は守れない。もちろん、江戸時代の生活に戻る覚悟なら米を確保するだけで十分だろうが。肉は必要ないのか、石油ストーブは、エアコンは、自動車はと、「欲しい」と思うものを挙げればきりがない。わが家は、子供の頃の生活に戻るとして、多分、米と野菜と魚とパソコンと風呂と、それらを動かすための1万円相当の光熱費で何とかなると思うが。
要するに、TPP反対の議論の多くは客観的でない。極めて主観的だ。
農家に戻った知人に言わせると、農業には一見美味しい仕組みがたくさんあり、ゼニを安く借りられるのだが、そのゼニは農業関係の上部団体に利益が還流する基本的仕組みの原動力になっているのだとか。まず、このパラサイト的な仕組みを壊し、本当の日本国農業のための仕組みに入れ替えないといけない。

2011/11/12


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