川北英隆のブログ

金融がもたらす危機の正体

今年はリーマンショックの後遺症がぶり返した。欧州に財政危機が生じたが、そこには当然のことながら金融の影が垣間見える。では、金融が経済に危機をもたらす理由は何なのか。
この表面的な理由は簡単である。金融商品にバブル的な価格上昇が生じ、それが崩壊することで金融機関が経営危機的な状態に陥り、その金融機関を潰さないために国家が支えるとの構図が見られる。では、バブルが生じた原因は何なのか。
ここ数年、呼ばれた講演会でよく使っているスライドでいくつかの原因を指摘している。いろいろあるのだが、第一にベトナム戦争以降から世界通貨であるドルが大量に流通するようになったこと、第二にデリバティブ(派生商品)が発達したためにレバレッジを高めて大きなポジションを作ることが容易になったこと(言い換えればより大量の資金が流通するのと同じ状態を作り出せるようになったこと)、第三に情報と投資手法の均一化が急速に進み、かつ投資家のスタンスが短期で揃うようになったこと、以上を指摘できる。投資の短期化には時価会計が一翼を担っているだろうし、さらには市場価格(インデックス)を投資パフォーマンスの評価手段として用いることが一般化したことも影響している。
この結果、「動く対象」を追うことが正当化されるようになった。「動かない対象」に投資してしまうと短期的な投資パフォーマンスにはマイナスの影響しかもたらさない。このため、投資家が特定の投資対象に群れるようになってしまう。
バブルを予防するにはどうすればいいのか。1つは長期的な評価軸を重視することである。1年決算ではなく、3年もしくは5年決算を重視することと等しい。もう1つはデリバティブを用いたレバレッジに対する規制の強化である。現物資金の流れをバーゼルでの合意以上に規制することは無理がある。一方、デリバティブを用いたレバレッジに何の意味があるのかと問えば、実物経済に与えるプラスの影響は少ないのではないだろうか。このように考えると、デリバティブ取引を規制することはバブルの抑制というプラスの効果を多くもたらすはずだ。

2011/12/25


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