川北英隆のブログ

貿易統計1月

今年1月の貿易統計が公表された。報道のとおり、輸出入の差額が大幅な赤字だった。少し時間ができたので分析してみたところ、次の事実が浮かんでくる。
1つは、注目される輸出と輸入の差額である。月間で1.5兆円近い赤字が記録され、リーマンショック直後の2009年1月の赤字0.96兆円を上回ってしまった。もともと1月は季節的に輸入が落ち込むので、赤字幅は割り引いて考えなければならない。しかし、季節調整後の輸出と輸入の差額でも0.61兆円の赤字であり、2009年1月の赤字0.58兆円を上回った。しかも、昨年4月以降ずっと、季節調整を行なっても赤字の状態にあり、その額も増加傾向にある。
2つに、輸出を地域別に見ると、アメリカが比較的底堅く、欧州とアジアの落ち込みが目立つ。このことは報道のとおりである。一方、輸入で特徴的なのは、欧州が堅調なことである。また品目別には乗用車の輸入が増加している。円高の効果で、高級輸入車をはじめ、ヨーロッパ製品に対する需要が高まっているようだ。為替レートの変動(ユーロ安、円高)が、本来期待されている貿易額の調整機能を果たしていることになる。
今後の輸出と輸入の差額に関する見通しについて、赤字が継続しかねないと考えている。原子力発電の再開に目処が立っていないため、燃料の輸入が高水準で推移することが、そう考える理由の1つである。もう1つは、世界的に経済が回復すれば日本の輸出も回復しようが、一方で原料や農産物など一次産品の輸入価格も上昇するだろう。さらに、日本企業の海外進出の効果により、輸出の傾向的な減少が生じる可能性も指摘できる。
貿易収支の赤字化は今の日本経済にとって好ましくない。1つは円安であり、国民が大きく依拠する通貨の価値が減じる。海外に気安く行けないし、ワインも高くなる。もう1つは、貿易収支が赤字である分だけ、国内から海外に資金が流出することになり、国内での資金の逼迫をもたらす。見方を変えると、大量に国債されている国債がクラウディングアウト効果を生み出すことを意味している。もちろん、民間の資金調達金利だけではなく、クラウディングアウトを引き起こした国債金利も上昇してしまう。

2012/02/22


トップへ戻る