川北英隆のブログ

賃金カットに見る日米の差異

今日の日経朝刊に「米産業に賃下げの波」という記事があった(5面)。アメリカも日本的になりつつあるのかと納得してしまう。というか、他人の不幸を喜びそうになるが、本当にそうなのか。
その記事に示されていたアメリカ家計の年間平均所得の推移の図によれば、2006年をピークに所得額が下がっている(ただし、数字は2010年までしかない)。サブプライムローン問題の表面化が2007年だから、その年から所得が低下したことになる。
所得の低下はもちろん消費にマイナスである。このことは、景気の後退が所得の低下と消費の低迷につながり、景気をさらに交代させ、それがもう一度、所得の低下と消費の低迷を招くという悪循環を連想させる。1990年代後半からの日本経済がたどった道筋のようなものだ。
ただし、日本との違いにも気をつけないといけない。
賃下げは企業の利益を向上させる。企業利益の向上は株価を上昇させる。アメリカの株価がすでにリーマンショック直前に戻っていることも事実である。そして、個人金融資産における株式や投資信託の割合が大きい。つまり、アメリカの場合、賃下げは個人所得を引き下げるが、株価の上昇がそのデメリットをある程度相殺することになる。
では、日本はどうなのか。個人金融資産における株式や投資信託の割合はきわめて小さい。企業業績が向上し、株価が上昇したところで、個人は気分的に明るくなるかもしれないものの、実質的な潤いを大きく得られるわけではない。
さらに考えるべき点は、日本の場合、賃下げが企業利益の向上をあまりもたらしていないという事実である。賃下げによって企業は何とか従来の利益を確保するに留まっている。そうだとすれば、残念なことだが、株価の上昇もたかが知れている。この点は別の機会に論じたい。

2012/08/19


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