川北英隆のブログ

資本コストの知名度が増す?

今日、日経ネットを見ていると、マーケット欄に「資本コスト」という用語を見つけた。「ROE>資本コスト」で選ばれる株、という見出しである。ただし、その内容は、ネット会員でないので不明だが。
「ROEすなわち株主資本利益率と資本コストとの対比」を見出しに使うのは、実は正確ではない。ROEと比べるべきものは、資本コストを形成する「株式コスト」である。そして、株式コストとは、株式を購入しようと考える投資家が、「少なくともこのくらいの投資収益率がほしい」と期待する率である。株式に対する期待投資収益率と呼ばれる。
株式だが、一度発行された株式には、社債のような満期がない。また投資家同士の株式の売買は投資家全体からすると意味がない。つまり、投資家全体として考えるのなら、企業に株式の形で提供した資金を回収する方法がない。このため、株式は非常に長期の資金と言うことができる。では、この株式に対する期待投資収益率の推計はどのようにするのか。
実のところ推計は少し面倒で、しかも誤差を含んだ手順が必要となる。とはいうものの、通常は国債金利に5%前後のプレミアム(上乗せ金利相当分)を足したものとなる。社債とちがい、株式は価格変動が大きく、損をする可能性もあるので、投資家は何らかのプレミアムを要求する。貸したカネをきちんと返さない者に対して高利を要求するのと同じ理屈である。
このように考えると、ある企業のROEが(その数年間の平均値が)期待投資収益率を超えていなければ、その企業の株式を買うことは望ましくない。もしも、その株価が期待投資収益率を超えて上昇するのであれば、それはバブル的な価格上昇であり、いつが暴落するか知れたものではない。
ということで、ROEが期待投資収益率を下回り続けている企業の株式は、投資家が期待するほど値上がりしないわけだから、そんな株式に誰も投資しようとは思わないだろう。この結果、株価は値下がりする。ROEと株式コストとの大小関係が投資家はもちろん、企業にとっても重要な理由は以上にある。

2012/10/02


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