川北英隆のブログ

記憶の不思議

昨日、「経営戦略とコーポレートファイナンス」の出版記念を兼ねて、編集者と執筆者とで飲み会をした。人形町にある「けむり」という燻製料理を誇っているらしい店だった。
飲み会の店を設定したのはSさんである。日経新聞社からIR協議会に行き、今ではそこの重鎮となっている。僕がSさんをいつから知っているのかは深淵の中(つまり不明)だが、5-6年前に日本取締役協会で会ったことだけは覚えていた。
「けむり」は路地にあり、複雑だ。その場所を即座に見つけ出せるのは嗅覚が優れている証拠だろう。10分以上時間の余裕のあった僕には、数分「どこや」と思ってさ迷うのには意味があったものの。
それはともかく、店に入ると、来ているのはSさんだけだった。挨拶をして、「会ったのは日本取締役協会以来か」と質問ともつかず語った瞬間、「2年少し前に会った」と言われてしまった。次いで、「日本証券経済学会の大会が京都産業大学で実施された時に」と言われた瞬間、「そやった」と、いろいろと思い出した。
その日は父親が亡くなった日だった。学会での発表とパネルの参加を依頼されていた。その発表の直前に父親のことを知った。約束していた発表とパネルなので、それだけを済ませ、急いで奈良の実家に向かった次第である。
京都産業大学から実家までは急いでも2時間以上かかるから、「ええやろ」と決め込んだものの、自分の発表以外は注意力がなかった。それで当日の記憶は非常に薄い。このため、Sさんと一緒だったことを当然のごとく忘れてしまっていた。もちろん、他に誰が発表とパネルのメンバーだったのかは完全に忘れていて、これを書いている瞬間も謎である。パソコンに資料を残してあるから、調べればわかるのだが。
記憶とは不思議である。その発表の日の記憶は非常に鮮明なのだが、当日の学会の記憶はほとんどない。正確に書くと、父親に関係する記憶は極めて鮮明なのに、それ以外は忘却のかなた。Sさんのように相手から言われないと思い出せない。

2014/01/23


トップへ戻る