川北英隆のブログ

投資家はどう行動したのか

さる原稿を書くため、日銀作成の資金循環統計を分析してみた。一般に資金循環統計を分析したものが少ないのは残念である。ということで、以下は大いに参考になるのではと思う(自画自賛)。
ついでにいきなり横道だが、自画自賛に関してコメントしておくと、政治の世界は自画自賛というか無画自賛の世界に近い。もっと酷いのは、良いものを壊してしまってまで自分を讃えること(悪かろうが良かろうが、新しいことを行うことだけに価値を見出す方向)だが、このことを書き出すと際限ないので、止めておこう。
分析してみて、2013年の主要な投資家群の行動で気づくのは、国債と海外証券投資に対するスタンスの差異である。これが大きく分かれている。
国債(1年以上の残存期間のある長期債)に関して新たな投資額を見ると、年金と生命保険会社はプラスの追加投資を行った。他方、銀行、個人、海外は保有額を減らした。とくに、銀行が国債の売却に転じたことに注目したい。
海外証券投資に関して、農林系、郵貯、証券投資信託、民間企業は投資額を増やしている。他方、銀行と年金が大幅に売り越している。
では、もう1つの重要な投資対象である国内株式に関して。国内の投資家は、投資信託以外は売り越している。もっとも、投資信託について、新たな資金流入があったから、国内株式を買い増すのは当然である。一方、海外投資家は国内投資家の売却部分を購入しており、年間の新たな投資金額が16兆円という大幅な買い越しとなっている。
以上から判明するように、2013年の投資行動は機関によってまちまちである。日銀の異次元の金融緩和が、それに対する疑心暗鬼を交え、投資家の行動を揺さぶっているのだろう。とはいえ金額で判断するかぎり、投資家の投資行動(金額)は依然として大人しい。
安倍ちゃんのスタンスとして、市場リスク(予期せぬ価格変動リスク)に対する大胆な投資行動が期待されているのだろうが、実際のところ、ある投資家が独自の発想で大胆に投資することは許されないのでは。2013年の資金循環統計を分析すると、大きく市場が動いた年にかかわらず、投資家の行動は縛られたままのように思える。
とはいえ、投資家ごとに行動に差異が見られる。このことは望ましい。今後生じうる多様な局面に対して、柔軟な対応が可能となるからである。国債(ひいては政府財政)の持続性に大きな疑問が寄せられている現在、投資家の多様な行動の可能性が債券価格の急変(暴落)をどの程度防いでくれるのか。この点に関心が寄せられる。いずれにせよ、資金循環統計を用いて証券市場をつぶさに観察することが、大いなるヒントの源泉である。

2014/04/18


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