川北英隆のブログ

勝負をして投資で勝つ方法

今日は産業革新機構の能見社長に講義をしてもらった。農林中央金庫を世界でも著名な投資家に仕立て上げた立役者である。先週の日本電産の永守社長と同様、合理的でハングリーな性格だと思う。
能見さんと知り合って17年かと思う。当時、農中、興銀、三菱銀行、日生の債券担当の部長が集まり(もう1社入っていたかもしれないが、当時の秘書か部下に確認する必要がある)、定期的に懇談会を開催していた。「仕事は報酬の120%で、まさに十二分」をモットーとする僕がそんな提案をするわけない。提案されれば乗る性質だが。多分、能見さんの提案だったかと思う。そのうち、日銀も入れようとのこととなり、白川さんと知り合った。白川さんは「割り勘なら」との条件で参加された。
それはともあれ、これまでも何回か能見さんに話しをしてもらっている。しかし今日は、その真髄を聞くことができた。洋々たる前途の広がる学生を目の前にしての話だったからだろう、彼の(って、僕より5歳年長だが)生きる情熱と合理的精神が語られた。講義の後、昼食も一緒だった。
そのすべてを書ききれないし、情熱の部分は不得意とする分野なので(情熱の対象が異なるのかもと、言い訳しておこう)、合理的精神に関して「その通り」と感じたところをメモしておく。書く内容は講義以外の情報も交えて、意訳してある。
「勝てると思う勝負しかしない」のが基本である。「勝てると思う」との表現に仕掛けがある。勝てるために、徹底的な情報収集、分析、下準備がある。その上で勝負に出る。
ここで書いた「勝負」とは、宮本武蔵の巌流島のようなものだろう。どの世界に生きても岐路(別の見方をすればチャンス)がある。その時に意思決定できなければ、つまりどの経路をたどるのか判断できなければ、負けと同じである。実社会において死ぬことはないだろうが、ステージのアップはない。能見さんは、その岐路において「勝てると思う」状態を作り上げ、勝負をしたのである。講義では、「ストーリーを描く」とか「(知識、経験、感性を積み重ね)運を用いる(運を呼び寄せる)」と表現していた。別の角度から表現すると「現在をしっかりと見る」ことに通じる。足元を確認せず、理想や思い込みや単純な予想だけで行動したのなら、どこかで躓いて大けがをする。
これは僕の情熱の対象で言うと山歩きと同じである。足元を見てしっかりと歩き、分岐に出会うと決断しないといけない。この歩きと決断は、計画段階でのしっかりとした情報収集と、事前に構築したイメージの裏打ちがないといけない。とはいえ、事前のイメージと現実の間には常にずれがある。そのずれを埋め合わせるのが経験と知識に裏打ちされた感性だと思っている。運に関して。僕は晴れ男なのだが、晴れる確率の高い時期を選んで、また事前に天気図を調べて山に入るから、晴れ男に見えるだけかもしれない。
勝負以外は計算づくである。永守社長のM&Aに対する方針を少し話したところ、「それはそう」、「M&Aでホームランを狙ってはいけない」、「ベンチャー投資も同じ」とのコメントをもらった。十分に調べた上で、イチローと同様、確実にヒットを狙うことが成功への近道というわけだ。分散投資の考え方が背景にある。
もう1つ、これは以前から感じていたのだが、能見さんの中心に、日本を良くするとの信念が通っている。これが産業革新機構の社長としての行動を支えているのだろう。そうでなければ、官庁や政治家からの不断のない圧力のかかる仕事を、そんなに高くない給料でやる気にはなれないだろう。
最後に、能見さんは「産業革新機構のやっていることは、JALの再生(規制産業において借金の棒引きをすれば再生は簡単)よりもはるかに難しい。ましてやダイエーやカネボーの再建なんて目じゃない」と言っていた。これは京都企業の精神と同様、「誰にもやれないことをやっているのだ」との自負である。とはいえ、客観的に見ても、JALには少し議論があるものの、ダイエーやカネボーの再建が成功したとは決して言えないのは確かである。

2014/06/05


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