川北英隆のブログ

ヘリコプターマネー大作戦の暴走

現在がヘリコプターマネーの状態に近いにもかかわらず、日銀券の値打ちに誰も疑問を感じないのは何でか。インフレを知らない世代が大多数になってきただけではない。日本の経済力も影響している。
このブログ全体の基調として、日本経済の弱点の指摘が多い。この本心は、「もっと日本はやれるはず」との意図である。日本経済の絶対水準が低いわけではない。絶対水準が低ければ、こんなに平和で豊かで安全な国を維持できるはずがない。
日本経済の絶対水準が高いことは、国際収支(正確には、そのうちの貿易収支や経常収支)が、絶対額は大分小さくなっているものの、黒字を維持していることに端的に表現されている。日本企業の国際的な競争力が曲がりなりにも(家電なんかは弱くなったが)維持されていることと、国民が無駄な消費をしないことが経済力の維持に貢献している。
問題は、この状態がいつまで続くのかである。
政府が背伸びをして「日本経済の成長」を追求しようとしている。この一環として、国民に消費をもっとしてほしいと思っている。ヘリコプターマネーがまさにこれである。一方、日本の労働力は減少し、企業は海外生産へのシフトを高めようとしている。海外で成功した企業は、その利益の一部を国内の還流させるものの、それは企業の生産活動の「あくまでも一部」でしかない。多くの部分は海外経済に貢献する。
このように考えると、やがて経常収支が赤字になる可能性は大きい。
さらにいえば、経常収支が赤字になる前に、誰かが日銀券の値打ちに疑問を感じ、資金を海外に疎開させる(外貨を買う)可能性だって十分にある。その動きがきっかけとなり、日銀券つまり日本円が大幅に売られかねない。
ついでに書けば、外貨として何を買うべきなのか。一時もてはやされたBRICsに信頼性がない。他の新興国も同様である。ユーロも長期的には下落プロセスに入ったようだ。結局はアメリカと、規模が小さいながら先進国の資源国(オーストラリアやカナダ)くらいしかないだろう。
結論は、現在は嵐の前の静けさにようだ。もちろん、第二次世界大戦によって日本経済が壊滅的になった状態とは異なる。このため、円が瞬間的に暴落することはないのだろう。しかし、10%程度の円の下落が波状的に生じることを覚悟しておくべきだと思っている。これがヘリコプターマネーの暴走である。

2016/07/25


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