川北英隆のブログ

親子上場問題の抜け

3/5、金融庁で開催されたフォローアップ会議のメモをアップした。その中で親子上場に関する議論を紹介した。経済産業省が提出した資料に基づいていた。と、早速、総理大臣主催の未来投資会議なるものでも議論され、親子上場の規制強化の方向が指示されたとのこと。
今日のネットに掲載されている。読売新聞のものをコピペしておくと、『上場子会社の取締役会について、独立社外取締役の比率を「3分の1以上」か「過半数」とする目標を明記する。独立社外取締役には親会社の出身者を選任しないことも定める』とのことで、6月にも指針をまとめるらしい。
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20190307-OYT1T50246/
子会社の場合、その役員が親会社の意向を受けて、もしくは官僚が大臣の意向を忖度するのと同じ構図で親会社にゴマをすり、子会社の利益をないがしろにするリスクが常にある。たとえば親会社からメチャクチャなことを(親会社の無能かつ余っている人員を抱えろとか)言われても、それに唯々諾々と従ってしまうリスクである。
その子会社が上場していればどうなるのか。親会社が大株主として君臨しているが、それ以外の株主(少数株主)もいる。その上場子会社が親会社の顔色ばかり伺っていたら、少数株主の利益が大いに損なわれる。このため、そんな子会社に誰も投資したくないと思うに決まっている。
以上から、親子上場している子会社の独立性を高めるため、子会社の取締役構成を変え、中立的な(つまり親会社の顔色を伺わない)判断ができるようにしようというのが、今回の未来投資会議の趣旨である。一歩前身かもしれない。
とはいえ、親子上場の問題の本質は別のところにある。
1つは、親会社にとって子会社の事業が高収益であったり、成長分野であったりする場合、その事業を子会社として切り離した上で、その株式の一部分を少数株主に持たせることが非合理的だとの事実である。本来の企業戦略とは、虎の子の事業を丸抱えすることだろう。「選択と集中」とも表現できる。もちろん、資金調達の必要性との理由での子会社上場もありえようが、今の経済状態において、ちゃんとした企業が資金調達に困るとは到底思えない。
言い方を変えれば、合理的に経営されている企業が、ある事業分野を子会社として上場させたのなら、その子会社に見込みがない証拠となる。もしくは、上場後に子会社を上手に操って搾取しようとしているのか、そもそも親会社の経営が合理的でない(経営者がボンクラ)かである。
もう1つは、3/5に言及した政府系企業の親子上場である。それをどうしようとしているのか、未来投資会議で議論された形跡がないことである。
政府系企業の親子上場としては、まずは親会社としてのNTTと子会社としてのNTTドコモなどがある。NTTはドコモの株式の63.3%を保有している。次は親会社としての日本郵政と子会社としてのゆうちょ銀行およびかんぽ生命保険である。日本郵政はゆうちょ銀行の株式の74.1%、かんぽ生命保険の株式の89.0%を保有している。
さらに言えば、NTTと日本郵政にも政府という親がいる。NTTの株式の34.8%、日本郵政の株式の36.8%を政府が財務大臣名義で保有している。
仮にNTTや日本郵政とその子会社の関係を整理できたとしよう。この場合、政府とNTTや日本郵政との関係は親子上場ではないから、整理の必要がないのか。しかし、NTTや日本郵政の少数株主の利益が、それらの親である政府の意向によってないがしろにされてしまう可能性は、やはり否定できない。親子上場と同じ論理である。
会議メンバーには経済産業省の大臣のほか、総務大臣(石田)、金融担当大臣(麻生)が入っている。彼らがNTTや日本郵政のことに言及したのか、心の中で何か思ったのか、何も思い至らなかったのか、是非知りたい。

2019/03/08


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