川北英隆のブログ

東京エレクトロンの利益とは

京都大学に東京エレクトロン(TEL)の東哲郎取締役相談役を招き、90分の講義をしてもらった。東氏はTELを世界的な半導体製造装置メーカーに育て上げた立役者だけに、その背景にある経営方針や理念には目を見張るものがあった。
東氏は1996年6月から2016年1月までの20年近くにわたり、社長もしくは会長職にあり、TELを牽引してきた。この間にTELはグローバル企業になり、世界的な競争力を有した。
TELのグローバル化とは、現地拠点のトップに有能かつTELの企業文化を理解した現地人を据え、海外の半導体メーカーと直接取引し、さらには共同で技術開発し、そうして作り上げられた技術の塊である装置を参入障壁とすることにあるらしい。
しかも、共同開発とは、TELから積極的な提案をすることを意味している。これが高い利益率につながる。この流れは、1990年代に見られた日本の半導体メーカーの凋落と軌を一にしている。
内部では1998年、つまり20年前からコーポレートガバナンスを強化することで、「経営を透明化し、経営者が会社を私物化できない体制を構築」している。たとえれば、日産のような罠にはまらない体制である。
社員に関しても、「夢と活力に満ちた会社」、「やる気の連鎖」を掲げている。半導体業界は変化が激しいから、技術革新を繰り返さないといけない。このため、変化に挑戦し、人と同じことをやらず、失敗を恐れず、むしろそこから学ぶ精神が重要だとしている。一言で表現すれば、TELは「社員を守り、社員を信頼し、社員の成長を最大限後押しする会社」になろうとしている。もちろん、成果は従業員に還元される。
このTELは利益追求を重視している。強欲だからではない。利益とは(正確に書くと、正しい利益とは)、お客様からの評価(顧客満足度)に支えられたものだと位置づけている。そして、顧客満足とは、「顧客が抱える重要な課題が真に解決された時に最大化される」とする。
この顧客満足と利益に対する意識は、共同開発や「人と同じことをやらない」方針とも相通じている。現在のTELが掲げる「営業利益率30%以上」という目標は、「儲け過ぎ」ではなく、「顧客満足度をもっと高める」という意欲の表れである。
利益に対するこのTELの認識と目標は、日本企業として学ぶべきである。実際、東氏の資料にも、日本企業の問題点の1つとして「利益への執着心が足りない」ことが挙げられている。
言い換えれば「日本企業は顧客満足度に対する意識が希薄」なのである。利益を顧客満足度と読み替えれば、利益をあげることは「強欲で恥じるべきこと」では決してない。非常に喜ばしいこと、社会的に有意義なことである。

2019/05/30


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