川北英隆のブログ

日本製鉄と日立の大差

今日、調べ物をしていてある重大な事実に気づいた。それが表題である。日本を代表してきた大企業として、日本製鉄と日立製作所を挙げることに違和感はない。日本の近代化の夜明けに登場するのが八幡製鉄所だった。日立は銅鉱山から派生、発展した。
ともに経団連会長を輩出したという意味でも、名門である。
とはいえ現状、両社ともに「名門のままいるだろうか」。と書くと、「名門のままであることに何か文句あっか」と反論されそうなので、「名門にふさわしい状態でいるのだろうか」と書いておこう。
世間一般の評価として重要なのは、株式市場での時価総額である。8/24現在の時価総額をグーグルで調べると、日本製鉄9636億円、日立製作所3.39兆円とある。ちなみに、各社の時価総額、日経のネットニュースでは出てこない(5年ほどだったか、以前は出てきた)。この点、グーグルが便利である。何故、日経が一般のネット利用者に重要な情報を伝えてくれず、アメリカ企業に教えてもらわないといけないのか。料金問題があるとはいえ、不思議である。
それはともかく、今日(といっても、朝だと前日)の時価総額のランキングの一部は日経新聞で見られるので調べると、日本製鉄は100位未満、日立36位である。別の手段で日本製鉄を調べると(意地になる必要は何もないのだが、ものはついでなので)、先週金曜日現在ではあるが、日本製鉄は130位、日立35位だった。
時価総額では、日立はかろうじて尊敬されそうな位置にいる。これに対して日本製鉄、今年の全英オープンで105位、予選落ちした渋野選手と大差ない位置と思って差し支えない。
もう1つが子会社群である。このブログを書こうと思ったきっかけでもある。親会社と子会社が一緒に上場していると、一般株主にいろんな不都合が生じる。要するに、今の家庭の親子関係からはイメージが難しいかもしれないが、企業の場合、親が子に「左向け」と言えば、子は左を向くし、「白を黒と思え」と言われれば、「白は黒い」となりかねない。
だから、証券取引所はもちろん、企業の味方の経済産業省でさえ、親子上場に対してきちんとしたルールを適用しようとしている。ちなみに僕は、基本的に認めるべきでないと思っている。
これを受けたのか、自発的にか、多分後者なのだが、日立は親子上場を整理し、非上場の関係会社の整理も積極的に進めている。「世界ふしぎ発見」のコマーシャルの時間に注目してほしい。多分今もそうだと思うが、主要な日立系列の企業群の名前が「この木何の木気になる木」を背景に、ずらずらと登場する。その社数がかつてとの比較で少なくなった。
10年前の会社四季報の目次には、日立が名前につく上場企業(日立製作所を除く)が16社ある。今は5社である。このすべてが日立の子会社だとは限らない(たとえば日立造船、戦時中は国の指図だろうか、日立と関係があったものの、戦後に関係を切っている)ものの、日立が意図的に親子上場の整理を進めた結果である。
付け加えると、(日立造船を除く)残る親子上場の4社のうち、日立キャピタルは三菱UFJと、日立物流は佐川と資本提携し、日立の影響力が薄まった。日立金属は売却段階に入った。残っているのは日立建機だけである。
一方の日本製鉄、日鉄と名の付く上場企業は3社しかないものの(そのうちの日鉄鉱業には投資したことがある)、会社四季報を見ると鉄鋼業の多くの企業で、日本製鉄もしくはその関連企業が大株主として名前を連ねている。さすがにJFE(日本鋼管と川崎製鉄の合併会社)の大株主に日本製鉄や関係会社の名はないものの、神戸製鋼には第2位の株主として名がある。高炉企業でさえ、もはや、日本製鉄とJFEの2社体制なのか。
たとえれば、日本の鉄鋼業は日本製鉄村と化しているわけだ。それなのに、本体の時価総額が1兆円割れ、130位とは。
この日本製鉄の村化戦略に気づいたのは、山陽特殊製鋼を調べたからである。いつの間にか日本製鉄が52.9%の株式を保有し、子会社化していた。日立の経営戦略と真逆である。しかも、日本の鉄鋼業、品質面でも韓国や中国の追い上げが厳しく、利益が危うい。そんな投資採算の合わなそうな分野に積極投資してどうするのか。学生だった頃、世界最大だったことのあるUSスティールが、アメリカ経済の力をもってしても何故冴えないのかと、不思議に思っていた。日本製鉄もやはり同じ道を歩んでいるということなのか。
日立の戦略が成功する保証はないものの、資源を成長分野に集中しようとしている。だから理解できる。日本製鉄が成長しそうもない分野に資源を集中させている。それも、親子上場やそれに類する上場企業を増やしながら。激しい逆流を遡ろうとする経営戦略、吉と出るのか凶と出るのか。経団連を動かし、日本全体を逆流に挑ませるだけの力がもはやないのは(こう書くと、かつて逆流に挑ませた日本軍を想起させる)、国民にとって不幸中の幸いか。

2020/08/25


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