川北英隆のブログ

失敗は成功の母と言うものの

功成り名を遂げ、今は第二の人生を送っている役人が言っていた。役人は100点を取らないといけない世界に生きているが、80点でもいいではないかと。80点に意味はない。掲げた政策に、不十分な達成しかできないものが混ざってもいいではないかとの意味である。
かなり以前に書いたことがあるのだが、今から50年近く前の新入職員研修で、講師だったかが、「会社での仕事は100点が求められる」と語ったのを鮮明に覚えている。「学校での勉強やないで」と言いたかったのだろうが、それを聞いて「変なの」と思った。
事務なら100点が目標となるのかもしれない。しかし、事務での100点主義を貫いてきた日本は、実のところ100点の呪縛に苦しんでいる。
その代表が銀行の振り込み手数料である。100点主義だから間違いは許されず、振り込みシステムに万全を期して「完璧なシステム」に仕上げるのだか、当然びっくりするくらいのコストがかかる。銀行の事務も同じである。チェック、チェックの連続だから人件費がかさんでしまう。
さらには、100点を取れない可能性が常にあるから、果敢で新しい挑戦ができない。社会でも、「あいつは一回失敗したんやで」と噂される。だから、新しいもの、革新的なものが生まれず、今回のようなコロナの事態に直面しても「うまくいかないかもしれない、どうしよう、止めとこうか」となる。
冒頭の役人の発言はこの日本的風潮を自嘲したものでもある。果敢な行動が取れないから、コロナへの対応が後手、後手となり、他国に大きく遅れてしまったというわけだ。
常に100点なんてありえない。挑戦し、失敗するから、新しい課題が発見できるのであり、新しい方法が突如として浮かぶのである。失敗するほど、経験が生まれ、新しい成功への道が得られる。まあ、失敗続きで一回も成功しないというのは、流石に「堪忍や」だが。
ここで思い浮かぶのは、「失敗は成功の母」という格言である。なかなか良い言葉ではないか。と思うのだが、ふと疑問も浮かんだ。「何故、失敗は成功の父」とは言わないのだろうかと。
「母すなわち女性は間違うもの、父である男性は絶対に間違わないもの」という先入観があるのではないか。格言においても、女を蔑んで見る日本的文化が(卑弥呼の時代は違うのだろうが)紛れ込んでいると思えてしまった。本当のところは「生むは産む」であり、母に通じているのだろうが。

2021/04/18


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