川北英隆のブログ

四半期業績報告の何が問題か

四半期開示廃止論が特定企業群と特定の政府内で盛り上がっているようだ。四半期開示とは、たとえば3月、6月、9月、12月と3ヶ月ごとに売上高や利益を計算し、業績数値として投資家向けに公表する制度である。
すべての企業は年に1回決算をする。言い換えれば、売上高や利益を計算し、それを対外的に知らせる。知らせる相手としての投資家がいない場合でも、少なくとも政府すなわち税務当局に年1回報告する必要がある。
「年に1回、それだけで十分じゃん」「それ以上は手間がかさむ、3ヶ月に1回なんて無駄じゃん」「四半期開示があるため、かえって投資家が右往左往して株式を売買しまうじゃん」と声を大にする古き良き時代の企業群がいる。その声を聞き、政府も乗り気である。
この議論にはいくつかの視点がある。その前に、どの視点から議論するのかを整理しなければならない。視点としてあるのは、企業内部なのか外部なのかである。もう1つは上場企業なのか非上場なのかである。
普通の企業は定期的に、少なくとも月に1回、売上高や利益を計算している。車の運転と一緒で、どの方向に進んでいるのか、エンジンが順調かどうかなどを常に把握しておかないと経営できない。把握できないのなら、事業をたたむべきである。
僕の父親が営んでいた零細企業であっても、月に一回は残高試算表なるものを作り、業績をチェックしていた。父親が、いわば社長、社員、小間使を兼ねていたから、肌で事業の調子を感じていたはずだが、それでも事業の調子を数値で把握しようとしていたわけだ。
大きな企業であれば、経営者として事業の全貌を把握し、正しい方向に進んでいるのかどうかを知るため、定期的に数値報告を受けるべきである。業績の把握である。数値に変わった点が生じれば、その部分の報告をさらに詳しく受け、評価、判断すべきである。月に1回では不安だろう。本来的には日々の数値を把握できるようにしておき、責任者を指名して、「少しでも変化を感じたらチェックするように」と命じるのが正しい。ここで「チェックする」とは、「トイレに行くのでこの荷物を見ておいて」の「見ておく」と同じ意味であるのは言うまでもない(言ってしまったが)。
企業の資金調達が証券市場を利用していないのであれば、把握した業績は内部情報のままで何の支障もない。一方、証券市場を利用して資金調達しているのなら(株式や債券を発行し、投資家を募っているのなら)別である。大切なお金を企業に提供してもらっている投資家に年に1回、年賀状のような儀礼的な業績の報告をするだけで済むのだろうか。
投資家もまた、企業の現状を把握し、正しい方向に進んでいるのかを知りたいと考えている。変化の激しい時代あってはなおさらである。少なくとも3ヶ月に1回くらいは状況を知りたいと思うのは当然だ。
企業の言い分としての、「頻繁に情報提供すれば、投資家が右往左往する、短期主義に拍車をかける」との主張は正しいのだろうか。もちろん短期的な業績の変化だけを予想し、結果を見て売買する投資家がたくさんいる。証券会社の多くはそういう短期の業績を流すことで売買高を増やし、手数料で儲けようとしている。
他方で長期に投資し(だから売買は簡単にはしない)、企業の成長の成果を享受しようとする投資家もいる。その長期投資家には、長期投資だからという理由で、四半期開示が不要なのだろうか。企業経営者と同様、事業の動向を定期的に把握しておきたい、何か変調があれば対処したい(例えば変調気味だと思えた場合、経営者と会って状況を確認したい)と思うのは当然だろう。経営者側としても、そのような長期投資家に「こうこういう理由で業績が一時的に落ち込んだが、将来的にはちゃんと対応できるようになっている」と説明し、同時に投資家の意見を聞くのが重要となる。
四半期開示不要論者には、多分業績の冴えない企業が多いのではないだろうか。投資家に問詰められるのを恐れているとか。もちろん、今の四半期開示に煩雑な面が多いのも確かである。煩雑だと思うのであれば、それを改めるように提案すればいいだけである。
また短期的な業績にこだわる投資家がいるのであれば、彼/彼女らを「しょうもない質問は後でしたってんか」と一喝すべきである。彼/彼女らが一喝に激怒し、株式を売ったのなら、そしてその企業が優れた企業であるのなら、しょうもない投資家の売却にともなう株価の下落を長期投資家は買いチャンスとみなすだろう。
四半期開示不要論を唱えるかどうかによって、企業経営の質を判断できる。質の良い企業は四半期開示の改善点を提示するとしても、不要論は唱えないだろう。たとえ制度的に四半期開示が強制されなくなったとしても、自主的に3ヶ月に一度程度は業績の報告を投資家向けに行うだろう。
別の言い方をすれば、繰り返しになるが、四半期開示をどうするのかは企業の質を見る上での試金石である。

2021/11/22


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