川北英隆のブログ

東証株価指数の模倣再考

われら国民が加入している(加入させられている)公的年金は、国内株式投資に関して東証株価指数(TOPIX)を手本にしている。つまり投資理論に基づき、東証株価指数が最適な投資対象だとする。
一方で、日本の株式市場の収益率が欧米(とくにアメリカ)に比べて劣っていることも自覚しており、日本市場全体の株価を上げるため、投資家として企業と積極的に意見交換することで、経営を良くすることが重要だと意見表明している。この投資家と企業との意見交換はエンゲージメントと称せられる。エンゲージメントを目標とすべく、2014年にスチュワードシップ・コード(以下、コード)なるものが金融庁の音頭によって制定された。
要するに、投資家と企業との意見交換(エンゲージメント)によって日本の全企業の業績が向上し、それによって株価が上がり、投資家がより多くの投資収益を獲得できる。企業業績が良くなれば従業員の賃金も当然に上がる。そういう狙いである。
現実はどうなのだろうか。
最大の投資家である公的年金(厚生年金のための積立金の運用・管理機関)は、日本の株式投資について、その手本をTOPIXとする場合が多い。そのため、現時点では2000社以上の企業に投資する。その上でコードは、投資している企業にはエンゲージメントすべきだと主張する。
とはいえ、公的年金が日本株式への投資を委託する運用機関は、せいぜい400-500社しかエンゲージメントできない。もっと真剣にエンゲージメントしようとすれば、さらに可能な社数は少なくなるだろう。エンゲージメントにはコストが必要である。優秀なアナリストを充当しなければならない。他方、公的年金はそのコストに見合う手数料を委託者に支払っているのだろうか。
エンゲージメントしているとして、TOPIXを構成する2000社の経営が改善しているのかといえば、その兆候もあまりない。経営がしょぼいから、TOPIX構成企業の半数程度が「企業の解散価値割れ」の株価でしか投資家に評価されていない。投資家は、「早く解散し、その上で資産を売却して、得た現金を株主に払ってもらうのが最善だ」と訴えている。だから株価が「企業の解散価値割れ」なのである。
他方、経営者には解散する気がない。今の高給をできるだけ長く食みたいと思っているだけかもしれない。もっと言えば、解散しようとの気のある経営者なら、むしろ経営刷新へと邁進しているはずだ。
少し違った角度から見れば、2000社が構成するTOPIXを模倣するということは、その半分、やる気のない1000社にも投資することになる。しかも、エンゲージメントなんて数的に不可能だから、極端に言えば、やる気のない企業にも投資資金という餌を与えることになってしまう。
どうすればいいのか。TOPIXにはもっと企業数を絞ったサブ株価指数がある。たとえば、そういうサブ株価指数の100社とか、せいぜい500社に投資することで十分ではないのか。
公的年金は国民のために資産運用している。そうだから、国民のために経営してくれている企業に投資するのが本筋である。やる気のない経営者がのさばる企業、しょぼい企業、そんなのに投資してもらったら、貴重な年金用の積立金が腐ってしまう。とんでもない上場企業を投資家として鞭打てるのならともかく、現実には鞭も足りないことだし。

2022/05/31


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