川北英隆のブログ

PBR1倍割れと葉なし大根

葉なし大根(葉を切り落とされた日本の普通の大根)のことを書いて思い出したのは、PBR(株価純資産倍率)1倍割れが常態化した日本の株式である。その心は、「ともに犯罪だ」。
葉なし大根が犯罪なのは、前回書いたように、大根の一番美味い部分を捨ててしまい、一般人に売るからだ。ひょっとして家畜に美味しい餌を食べさせようとしてるのかな。もう少しうがった見方をすれば、大根の鮮度が落ちたことを隠蔽するため、黄色くなってしまいがちな葉を切り落とすのかもしれない。
PBR1倍割れが犯罪だと言ったのは、実は僕ではなくて有識者の知人である。PBR1倍割れの議論に引きずり込んだのは僕のような気もするが。
PBR1倍割れ企業の多くは、その事業利益率(事業によって稼ぐ利益率)が資本コストを未満であることを意味する。つまり企業に株式や負債の形態で資本を託した投資家から見て、期待を裏切られたことになる。
投資家の代表である株主から見ても同じである。株式で、たとえば100円/株を企業に出資し、その段階では10%の利益を稼いでくれると期待したとしよう。ところが蓋を開けてみると、利益率は8%、つまり企業は100円を投資して事業を営んでいるのに、8円しか稼げていないと判明した
このため株主が失望して株式を売却しようとする。その結果、株価が下がって80円になった。つまり新たに株主になる投資家は元の株主に対して80円を支払うことになる。企業の貸借対照上、株式(株主資本もしくは純資産)は100円で計上されているから、PBRが0.8倍(PBR=株価/純資産=80/100=0.8)になり、1倍割れである。
この80円で株価は均衡する。理由は簡単で、新しい株主から見て企業の期待収益率が10%に戻るからにすぎない。確認しておくと、「事業利益8円/株価80円=10%」と計算できる。
ということで、PBRはその企業の事業利益率が株主の期待を裏切っているのかどうかの重要な指標となる。PBR1倍割れなら、その企業の経営者は、「株主が期待しすぎ」か「株主が企業を正しく評価していない」か「経営つまり自分が悪い」かを判断しなければならない。
「株主が期待しすぎ」と判断したのなら、株価はそのまま放置である。ただし、期待しすぎた株主の意をくんで企業買収を目論む株主、すなわちアクティビストの登場を警戒しなければならない。
「株主が企業を正しく評価していない」のなら、株主に対する宣伝、すなわち一般株主向けにIR(インベスター・リレーションズ)を強化しつつ、影響力のある株主との議論を積み重ねる必要が生じる。
「経営つまり自分が悪い」のなら、取るべき行動は経営の改善、改革に決まっている。
現実はというと、PBR1倍割れに何の反応も示さない企業が多すぎる。もちろんPBR1倍割れが一時的なら慌てない経営は当然だろう。しかし日本では、長年にわたりPBR1倍割れなのに、無関心、無反応の企業が多すぎる。
だから「PBR1倍割れは犯罪だ」、「経営者に自覚が足りない、責務を果たしていない」となる。犯罪の事例は稿を改めて示したい。

2022/12/10


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