川北英隆のブログ

電力改革の形式主義

2020年4月、日本の電力制度を改革するため(具体的には地域独占を改めるため)、経産省は大手電力会社10社の送配電部門の法的分離を実施した。結果は幻だろう。
電力会社の機能は、発電、送配電、販売に分けられる。この機能を分離、独立させ、電力会社の競争を促そう、発電や販売だけの事業参入を容易にしようとの狙いがあった。この主要なターゲットとなったのが送配電の機能である。
裏から見ると、送配電は非常に大きな装置産業である。この事業への参入は容易でない。だから既存の電力会社も新規参入者も平等に使えるようにしようと、経産省が図った。
電力会社の改革は実際にはどうなったのか。調べたところ、2つの方式に分かれた。東電と中部電は発電、送配電、販売をそれぞれ独立させ、それを純粋持株会社が束ねる形態を採用した。一方、他の地域の電力7社(沖縄電力を除く)と電源開発(J-Power)は送配電だけを分離し、発電と販売を行う既存企業の下にぶら下げる形態とした。なお、沖縄電力は地域特性を考慮し、法的に分離しなくてもいい、ただし情報隔離をはじめとする部門の独立性は確保するようにとされた。
そんな大手電力会社だが、結局のところ送配電会社(部門)の独立性は得られなかった。分離前とほぼ同様、送配電会社(部門)の情報が、とくに顧客情報が他の兄弟会社、親会社、他部門に対してじゃじゃ漏れしていたという。つまり新規参入者に対して既存の電力会社が優位性を保てる構造になっていた。これを電力・ガス取引監視等委員会が見つけた。
「電力会社、ひどいやん」というところだが、これは経産省の手抜きだろう。形式的に会社を分離したところで、昨日まで同じ会社に勤務していた者から「これ、教えて」と請われた場合、「今日からはあかんよ」と、にべもなく断れるだろうか。
多分、会社は分離されたものの、同じビルの中で仕事をするまま、フロアが変わる程度の変化だろう。人事権は持株会社や親会社が握っているだろう。情報の提供を昨日と今日で掌を返したように断れば、「あいつは石部金吉や」との評判がたちまち生まれ、社内の出世街道からはじき出されに違いない。
「そんな簡単なことを経産省ともあろう能力者がわからなかったのかな」と思う。多分、電力会社が「そこはしっかりと抑えますよってに、お代官様」と説得したのだろう。
日本の社会は、大なり小なり同じことである。形式重視であり、実際は大きな変化を避けて通る。だから形式変更のためのコストだけがかかり、実を伴わない。効率性が劣化していく。
本来の電力会社の場合、少なくとも送配電会社は既存の電力会社から完全に独立すべきである。株式を上場してもいいのではないか。独立した会社として活動すれば、日本の電力供給網の再考、再編、増設が進む。送配電網が電力インフラの中核なのだから。今さらながらそう思うし、識者と議論していても同じ結論だった。

2023/02/27


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