川北英隆のブログ

東芝の残念と当然

東芝が株式の非公開化に向かって大きく前進(?)した。今発行している全株式を買い集め、上場廃止にもっていき、経営の自由度を高め、企業価値の向上に邁進するらしい。これに必要な費用は約2兆円である。「無駄な資金と時間の使い方をしたもんやな」と思う。
2015年4月に不正会計が発覚して、東芝の瞑想違う迷走が始まった。17年12月には上場維持(債務超過の回避)のため、内外の名うてのファンドに対して株式の第三者割当増資を行い6000億円の自己資本を調達した。そして今回、迷走開始から8年の後、株式の非公開化(すなわち上場廃止)に向けた意思決定をしたのである。
付け加えると、当初の2年間、東芝は上場維持のため、虎の子や金の卵である事業を売った。半導体事業(今のキオクシア)の6割近くと、医療機器事業(東芝メディカル)のすべてが代表的である。
当時から懸念されていたように、東芝が上場維持のためにしてきたことはちぐはぐだった。というか、完全な足かせになっている。不正会計が発覚した後、社内の経営体制を自己反省できていたのなら、「上場廃止もやむなし」「上場以前の原点に立ち戻り、経営を立て直そう」との決断ができていたはず。どうしてできなかったのか。
そうではなく上場廃止について、「恥ずかしい」「過去の経営者、かつての上司の顔に泥を塗る」「名門東芝の名が地に落ちる」「地に落としたら自分達はもっと無様だ」と思ったのだろう。しかしながら、第三者割当増資と虎の子もしくは金の卵の売却はアホな経営者が藁にすがった結末でしかない。
半導体事業は、今や政府としても最重点政策分野である(半導体メモリーのキオクシアがグローバルな競争に打ち勝てるかどうかは保証のかぎりではないが)。東芝メディカルを買い取ったキヤノンは医療機器を次の中核事業にしようと注力している。
一方の第三者割当増資は東芝の迷走を加速させた。名うてのファンドだから、しかも増資に応じた資金を当然のことながら「できるだけ短期かつ高値で回収したい」から、東芝の経営にあれやこれやと口うるさく注文を付けた。その結果が今回の株式の非公開化につながった。
ファンドとして非公開化に応じれば、17年の割当価格2628円を4620円すなわち76%高で買い取ってもらえる。東芝から見ると、当初の6000億円を1.1兆円程度にして返すことになる。「虎の子や金の卵を失い、大金をはたき、迷走した末に、17年当時に拒絶したはずの上場廃止を選ばざるをえないとは、とほほ」である。
いろんな企業(組織)を見てきた僕の経験からすると、社風を変えるのは非常に難しい。40年前に「こらあかんな」と思った企業の多くは、今もダメ企業である。東芝はというと、多くの優等生を揃えている。優等生だけに答弁は上手なのだが、その答弁の本質は「読んだり聞いたりしただけのもの」であり、自ら考えて行動し、足と手で獲得したものではない。
今の東芝に次の金の卵があるのだろうか。2兆円という資金負担をどうカバーしていく計画なのか。一縷の望みは、アホな経営を続けてきたものの、東芝の技術に光るものがあることだろう。だから政府も経産省を中心として、この8年間、東芝の経営に対してあれやこれや、陰から日向からエールを送ってきたのだろう。
残念な東芝は今回、当然かつ唯一残存する選択肢を選んだ。奮然とアホな経営から脱却し、光る技術を磨き、泰然たる経営を確立してもらいたいものだ。

2023/03/25


トップへ戻る