川北英隆のブログ

統計のリーマンショック後遺症

リーマンショックの後遺症が統計に影響している。貿易統計の後遺症については何度か指摘した。同じことが鉱工業指数にも出現している。
後遺症はいろんなデータと、その解釈に影響を及ぼす。たとえば、前年同月と比較した場合、後遺症から異常な「上昇率」が出現する。もっとも、これは「前年同月がリーマンショックによって極端に低いから」とすぐに理解できる。
一方、季節性を除去するための統計的手法を使った場合、リーマンショックのように10月から2月頃にかけて急速に数字が低下すると、「統計的手法」が「この時期の低下には季節的な要因があるから」と機械的に評価してしまう。この結果、少々の低下は季節的なものだということになり、季節性を除去すると「上昇している」との数字が計算されてしまう。逆に、リーマンショックの直接的な影響をあまり受けなかった春から夏にかけては、少々の上昇は季節的なものだということなり、季節性を除去すると「低下している」との数字が計算されてしまう。
しかも、季節調整済みの数字で人間が比較するのは、当月の数字を前月で割った上昇率もしくは下落率である。このため、1年前やそれ以前に生じたリーマンショックが影響しているなんて、普通は疑いもしない。だから、誤った判断に陥りかねない。
それはともかく、貿易統計と同様、鉱工業指数も多少気になっていたものの、無視していた。最近、ある先から、鉱工業指数は4月から夏にかけて、「ちょっとずつ生産実態が上昇した程度では、季節調整済み指数は低下してしまう」とのコメントをもらった。
この指摘を確認するため、貿易統計と同様、2年前の同月と比較した。そうすると、昨年秋から今年2月にかけて、鉱工業生産の回復は一服し、マイナス20%から15%の間で推移していることがわかった。それが3月になってマイナス13%台の低下にまで急速に回復した。これに対し、季節調整済み指数の前月比では、昨年11月から今年1月まで2%から4%の大幅なプラスであり、逆に2月と3月はほぼ前月と同水準で推移している。つまり、両者のイメージは大分異なっている。
結論は、「しばらくは季節調整済みの数値と、2年前の同月との比較を併用する必要がありそう」ということだ。

2010/05/16


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