川北英隆のブログ

事なかれ主義による独立系排除

以前から気になっているのがAIJ投資顧問会社事件の余波である。この事件に懲り、もしくは誰かから「大丈夫かい」と言われた結果、独立系を忌み嫌う風潮が生じている。一種の事なかれ主義だ。
独立系・ベンチャー系の企業には、規則に忠実な官僚的人材が不足している。そんな人間が独立系企業に就職するのは自己矛盾である。また、きちんとした大人しい性格の人材を独立系企業が好むはずがない。好むようになるのは、独立系が企業としてある程度成熟段階に達した後だろう。そうだから、独立系の事務体制とその処理に抜けが生じ、最悪の場合は社内の実力者である創業者が嘘をついたとしても、そのまままかり通る事態さえ生じうる。
では逆に、官僚的人材が揃っている場合は万全なのか。実力者といえども好き勝手に振る舞えないからAIJ事件のような大規模な詐欺的事件は発生しない。そうかといって、完全に信頼できるわけでもない。
よくあるのはグレーゾーンでのプレーだ。金融商品でいえばデリバティブを組み込んだ「仕組み債」が最たる例だろう。仕組み債を買ったはいいが、組み込まれたオプション条項がすぐにヒットし、含み損をかかえたまま塩漬け状態になっている財団は数多い。東京での情報や評判が行き渡らない地方や、うぶで専門家のいない「金持ち」は、こんな手合いというか業者に注意した方がいい。
また、最近話題になっている「増資情報などの内部情報を使った取引や取引勧誘」である。これは過去の業界の遺物とも言うべきものだろう。特定の顧客に耳寄り情報を与えて儲けさせ、もしくは自分も儲けることは一種の常識だった。かつては罪の意識がなかったから、その伝統がいまだ残っていたとしても不思議ではない。もっとも現在、耳より情報が本当に耳寄りなのかどうかは疑問だが。
さらには、仲介業者でありながら、もしくは中立的な情報を提供する立場にありながら、また受託者からの委託を受けて誠実かつ専門的に業務を遂行する立場にありながら、「重要顧客」が有利になるように振る舞ったり、直接自己の利益を勘案しつつ振る舞ったりする業者はいつの世にも存在する。2007年に表面化したサブプライムローン問題が、この好例だ。ある会社が系列下にあり、関係会社の利益に敏感であれば、この手の「いかさま」に顧客を誘導する事態は生じやすい。独立系にはないリスクである。
「いかさま」があったとしても、AIJ事件のように元金がすべて消失しないわけだから、系列系を使う立場からは許容できるのだろうか。とはいえ、そのような系列会社を使い続けたとすれば、機会損失の累計金額はAIJ事件の損失額をはるかに超えると思えるのだが。

2012/04/13


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