川北英隆のブログ

国際会計基準の野望潰える?

国際会計基準(IFRS)はどうなったのだろう。もちろん議論は進んでいるのだが、一時ほどの勢いがない。国際会計基準の開示主体である企業側の準備作業も、後ろ倒しになっているらしい。
要するに、国際会計基準の推進母体であったEUが、政府債務問題の深刻化で、「そんな基準どころではない」状態に陥っている。明日のことを議論するよりも、今日というか、この瞬間のことに忙殺されている。
考えてみれば、国際会計基準はEUの壮大な戦略だった。ISOの役割と同様、世界共通の会計基準を先導することで、世界経済の覇権を握ろうとしていた。日本をはじめとするそれなりの資本市場をかかえた国はもちろん、世界最大の市場国であるアメリカでさえ国際会計基準を無視することができなかった。アメリカの会計基準を押し通すというよりも、いかにして国際会計基準の制定においてアメリカが主導的な役割を担うのか、途中から戦略を切り替えていた。
その国際会計基準の勢いを止めたのがリーマンショックである。当時、債券市場と金利水準が混乱したという理由で、一時的に会計基準の適用停止を認めた。
国際会計基準の特徴は、時価(公正価値)の採用であり、その場合に経営者の経営意図を重視する立場にある。市場時価が明確な株式や国債と異なり、土地や借入金には明確な価格がない。そんな商品にも価格(公正価値)を付与するのが国際会計基準の試みだった。
公正価値を算出するには、将来に生じるキャッシュフローの割引率が重要になる。しかし、この割引率のベースとなる国債金利が大混乱している。端的に言えば、現時点のギリシャ、スペインやイタリアの企業について、何を割引率の基準とし、価値を算定するのか。
経営者の意図は、販売用不動産の時価評価に典型的である。販売用かどうか、販売見込額をどう裁定するのか等、企業の主観に依存する度合いが高くなる。経済が順調な場合、主観に依存したところで大きな誤差は出ないだろう。しかし、経済が不調になれば経営者の能力が大きく関係するようになり、主観に基づく価値と実態との乖離が大きくなってしまう。
EUによる国際会計基準は、経済が順風満帆な時代に夢だったように思う。現在、企業が依拠する一国の経済と長期金利の水準を見極めることだけでも難題である。ましてや企業の意図は無理難題だろう。
今後、国際会計基準の議論において、単純に、「では、割引率をどうするのか」、「経済環境によって国債金利が大きく変化するものの、それが企業価値に大きな影響を与えていいのか」と議論をふっかけられた場合、会計基準設定者はどのように答えるのだろう。

2012/07/12


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