川北英隆のブログ

ROEかROAか

株式投資に関して、ROE(株主資本利益率:当期純利益/株主資本)かROA(総資産利益率:営業利益/資産合計)のどちらで分析すべきなのか、ときどき議論になる。その答えは。
なお、ROAの分子として、営業利益ではなく、経常利益や当期純利益が使われることもあるものの、これらには経済的な意味がない。分母と分子の対応関係が混乱しているから。
さて、株価とそれに基づく株式投資の基準として用いるのなら、直接的にはROEだろう。この水準が国債利子率をどの程度上回っているのかが、当期における、株式投資から得られる超過利潤(国債利子率に対するリスクプレミアム)の大きさを表現しているからだ。もちろん、あくまでも企業が合理的に行動しているとの大前提がある。8/9に書いたような、資本コストの概念さえも知らない経営であるのなら、ROEが高くても、企業が稼いだせっかくの利益も無駄に使われてしまい、株式投資家の利益に反映されない。このため、ROEが優れた投資判断基準とはならない。
元に戻る。ROEが直接的な投資基準になるわけだが、そのROEは不安定である。景気の変動と借入利子率の相互の影響を受けてしまう。たとえば、レバレッジを利かした(すなわち借入を積極的に用いた)経営を志向している企業の場合、景気が悪くなればROEは大きく低下する。逆に、景気が良くなればROEは大きく上昇する。投資家とすれば、どの程度のROEが通常時の水準なのか、見極めなければならない。
その見極めの基準としてROAが役に立つ。ROAは借入の多寡とは無関係である。企業の資産が、全体として、どの程度の率で利益を生み出しているのかの数値だから。別の見方をすれば、企業経営者は、自社のROAの水準や性質を前提として、どの程度のレバレッジを利かすのかを常に判断している。ROAをより高くもっていくのはCEO(社長)の役割、レバレッジの水準を決めるのはCFO(財務担当役員)の役割である。
結論は、ROEかROAかという質問に単純な答えはない。ROAによって企業の基礎体質を見極め、ROEによって現在の元気度を測るというところか。

2012/08/12


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