川北英隆のブログ

損害保険の役割放棄?

企業の事業活動にはリスクがつきもの。ごく最近では、日本触媒の爆発事故や中国での暴動による被害があった。これらに備え、企業はリスク管理の一環として損害保険を契約する。しかし、である。
中国での暴動でついては、被った損害に対して保険金を支払ってもらうよう特約をあらかじめ締結していたのなら、企業として保険金が受け取れ、損害をカバーできる。その分、損害保険会社側に保険金支払いが発生し、利益圧迫要因となる。このため、損害保険会社の間には今後の契約に関して、保険料を引き上げたり、保険契約そのものをためらう動きが生じているらしい(10/5日経)。
また、昨年のタイの洪水では、日本の大手損害保険3社だけで5000億円を超える保険金が支払われたとのこと(5/21読売新聞)。このため、タイでの洪水に関する保険契約の更新が困難らしい(3月のタイ出張時のヒアリングおよび9/23日経)。この事態に対してタイ政府が公的保険の提供に乗り出している。ただし、保障の範囲が部分的であり、保険料も高いらしい。このように損害保険契約が締結できないのでは、企業にとって事業の円滑な遂行が難しくなる。
保険事故として、中国の暴動は人為的なものだけに、損害保険会社側からすると、事故率を見積もるのは難易度が高い。日中間の関係が悪化すれば、暴動が引き続き発生することや、暴動による損害規模の拡大も視野に入ってくる。このように考えると、損害保険契約が困難になることは「確かにそうかな」と思えてくる。
これに対し、タイでの洪水は、その被害の多くが自然災害である。台風による損害と同質だと考えていい。とすれば、事故率を見積り、保険対象物件(工場)の状態を調査し、これらに基づいて保険料を算定して契約締結に至るのがビジネスというものだろう。つまり、保険の契約ができない現実は、どう考えても異常である。世界的な再保険網や、その他の保険リスク分散のための技術を駆使し、できるかぎり保険契約の締結のために努力するのが損害保険会社の役割だと考えるのだが。
日本経済にとって、国内企業の海外進出は最大の課題である。企業も、ようやく積極的に海外展開を図ろうとしている。その時に日本の損害保険会社が海外での契約を渋り、日本企業の足を引っ張ってしまうのはどうしたことか。自動車保険などで甘やかされてきた損害保険業界という育ちの良さがアダになり、損害保険会社としての本当の意味での役割発揮ができていないのではないか。

2012/10/06


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