川北英隆のブログ

「株価は人気投票」の真贋

株価は人気投票で決まる。これは有名な経済学者、ケインズの言葉として知られている。証券価格も同じ。「だったら、人気のあるものを買わないと儲からない」と考えることは正しいのか。
ケインズの言葉を正確に書くと「株価は美人投票」である。誰が美人として選ばれるのかを当てるためには、真の美人が誰なのかを評価したのでは駄目で、多くの投票者が「誰を美人と思うのか」を当てないといけない。
冒頭の質問に戻ろう。その質問の意味は、次のように表現し直してもいいだろう。ケインズが株式に投資したとすると、人気のある、すなわち株価上昇の株式に投資したのだろうか。
実際のところ、ケインズは株式投資家だった。では、どういう株式を買ったのか。そして儲けたのか。このことは林ドリアン著『歴史が教える相場の道理』に書かれている。それをまとめると、ケインズは1929年の大恐慌以降の相場で大儲けした。それも、たたき売られた(すなわち人気が凋落したというか、見放された)株式を買ったのである。
つまり、株価は人気で決まるが、その人気を信じてはいけない。やはり真の美人が誰なのかを評価し、その美人に賭けないといけないわけだ。むしろ、人気だけで美人に選ばれたのなら、いずれ人気が剥げ落ちてしまう。その美人を美人だと称えていたのなら、不美人の肩を持った結果に終わり、大いなる反省を迫られる。
そこで試金石を示しておきたい。その試金石に自分をこすりつけ、本物の金になれる素質があるのかどうか試してみたいものだ。試金石は次のとおり。
先週の木曜日は満月だった。8時13分に月が100%輝き(つまりフルムーンになり)、「こんな中秋の名月は8年後しか見られない」とのことだった。街にはその写真をスマホ撮る姿が多く見られた。この姿は相場的に見ると正しいのかどうか。
確かにその日は空気が澄み、良い月だったが、反面思ったのは、「これは中秋の名月やないんやで」と。7月の七夕が通常は梅雨の最中のように、9月の満月は秋霖と重なる確率が高い。本当に澄んだ空になる確率が高いのは10月になってからである(これも異常気象で怪しくなりつつあるが)。新暦で季節を数えることが間違いなわけだ。
ということで、木曜日の月を「中秋の名月の中の名月」と思っているのなら、多分相場で儲けることはできないだろう。ニュースという人気に左右され、その人気に任せて行動したわけだから。
もう少し書くと、いの一番にスマホでその「名月」の写真を撮り、それに追随する多くの者を見ながら、「大衆の行動を左右したね」という愉快犯的な行動を取るのなら、短期的な相場で儲けられるか、相場操縦の天才になって塀の中で生活できるかもしれないが。

2013/09/22


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