川北英隆のブログ

ライツ・イシューと金融音痴

ライツ・イシューもしくはライツ・オファリングと呼ばれる増資の方法がある。既存の株主に新株予約権を無償割当する方式である。公募増資や第三者割当増資の弊害を改善するため導入された。
公募増資はもちろん第三者割当増資の場合、既存株主の権利が薄まってしまう。この懸念から、公募増資の発表と同時に株価が下落してしまうのが常である。
この現象が日本でも大問題となった。これを受け、既存株主の権利を守るために、海外で用いられているライツ・オファリング制度が導入されたわけだ。
一見ハッピーな制度の導入のようだった。しかし、実際のところは当然というべきだろうが、制度を悪用する企業が多出した。というのも、ライツ・オファリングの方法として日本で認められた方式には、証券会社が関与するコミットメント型と、関与しないノンコミットメント型とがあり、後者のノンコミットメント型では企業が勝手に資金調達できたからである。
頭の体操として、どう悪用できるのか考えてみたいものだ。
説明しておきたい。ノンコミットメント型では株主総会決議は不要である。経営者が「やろう、得やで」と言うだけで、新株予約権を割り当てられる。株主としては強制的に資金を巻き上げられるに等しい。
「新株予約権を行使しなければ、新たな資金投入は不要なのでは」と思えるが、権利という価値のあるものが割り当てられることから、株価が下落してしまう。既存の株主にとっては、新株予約権を有利に売却できないか、もしくは有利に行使できない状況に陥れば損失が発生する。この時、ライツ・オファリングする企業がダメ会社なら、どうなるのか。模式的には、株主は新株予約権を有利に処分、行使できない事態に陥る。しかし、新株予約権の権利を行使しないとさらに損を重ねかねないから、いやいや行使する。(実際には株主は新株予約権を市場で叩き売った。それを安く買った投資家が行使したのである。)
何が起きたのかは明らかである。ライツ・オファリングを用いた企業は、多くがダメ会社だった。とんでもないことである。これを知った東証は、この10月からライツ・オファリングできる企業を限定する。企業(経営者)が勝手に決められないようにし、また赤字決算や債務超過の企業を排除する方向である。
以上が経緯である。
しかし、と思う。ほんの少し考えてみればわかるように、ダメ会社ほど資金がほしい。このとき、ダメ会社が社債や借入や株式で資金調達しようとしても、誰も応じない。社債や貸出をしたとして、その元利金が100%返ってくる可能性は薄い。株主はどうかと言えば、既存の株式がゼロになろうとしているのに、増資に応じたところで、その資金がすぐさまゼロになるのはほぼ必然だろう。以上、そんな企業が資金調達できるなんて、きわめて変である。
そんな誰が考えてもすぐに分かる状況があるのに、ノンコミットメント型を導入したとは、何があったのか。ダメ企業の味方をしたとは考えられない。とすれば、金融センスがなかったのだろう。我田引水的に結論しておくと、MBAで学び直すべきだ。

2014/09/12


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