川北英隆のブログ

物価上昇だけにこだわる不思議

昨日の日銀総裁の会見に対する日経のコメントは「物価目標に逆風」である。一方、日経は原油価格下落に対して「日本経済に恩恵」だった。両方のコメントを並べると、えらく矛盾している。
何が真実なのか。
原油価格の下落は、長期的に見て日本経済にプラスである。原油のない日本にとって、必須の一次産品である原油を安く買えることはプラスである。とはいえ、原油価格が急落していることは、世界経済に混乱をもたらす。また、世界経済の需要減少、すなわち景気の悪化を示唆している可能性が高い。このかぎりにおいて、原油価格の下落は望ましくない。
現状は、原油価格の急落はロシア経済に大きな影響を与えている。この影響がどこまで波及するのかである。楽観視できないものの、今のところ局所に留まる可能性が高い。世界経済に関しても、アメリカ経済が何とか成長しているため、大きな後退は回避されている。懸念は中国経済の行方だろう。もう1つはヨーロッパか。
このように現在の原油価格の下落は日本経済に恩恵をもたらす可能性が高い。しかし、よく考えると、円安によって実質的な(最終的に円で支払わないといけない)原油価格が上昇していたわだから、「では、円安は日本経済にダメージを与えていたのか」との疑問を呼び起こす。
そのとおりである。少なくとも、円安による物価の上昇では、日本経済全体にとって何のメリットもない。物価の上昇が望ましいのは、賃金が上がり、それによって物価が上昇する場合である。企業の例で考えると、画期的な製品を作り出し、それが高値で売れ(言い換えれば企業に大きな利益をもたらし)、従業員の賃金を上げられるようになる場合と同じである。日本では、高度成長期から1980年代後半のバブルの頃にかけて、この状況が作り出されていた。
それとは異なり、原材料費が上がったから、製品価格を上げようとし、その値上げが納品先に了承されたので、後は世間の物価水準を見つつ従業員の賃金も見直すのでは、何の意味もない。もしも値上げが十分に認められなければ、企業経営はジリ貧になる。現在の円安における日本経済はまさにこの状態にある。
極端な円高の修正は意味があるだろう。しかし、必要以上に円安に誘導すると(もしくは極度の金融緩和にともない、コントロールが効かないほどに円安が進むと)、日本経済はジリ貧になりかねない。ジリ貧を食い止めるには、日本株式会社が円安による原材料費の値上がりを相殺して余りあるほど儲けるしかない。そのためには、競争力の回復が必要となる。海外が日本製品価格の値上げを認めざるをえない程の新たな状況を作り上げる経営力と、その新たな状況で得た利益を従業員に振る舞う度量が求められるというだろう。
言い換えれば、雨乞い経営でもなく、牛に引かれる経営でもなく、重箱の隅をほじくる経営でもない。そこまで日本の経営全体がレベルアップするのか。最近の風潮を見るに、まだまだ道は遠いように思える。

2014/12/20


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