川北英隆のブログ

プロなら議決権行使に責任を

ある企業と話をしたところ、複数のアセットマネジメント会社の議決権行使を嘆いていた。株主総会での議決権の行使はいいのだけれど、「どこそこ議決権行使助言会社の方針に従う」と決めているという。
アセットマネジメント会社が企業を調査して投資している場合、その企業のことは議決権行使助言会社よりも良く知っているはずだ。そうではなく、企業のことを理解せずに投資しているのなら、それこそ投資のプロとしての責任を果たせていない。流行りの表現を使うとスチュワードシップ・コード違反である。
議決権行使に関しても自分できちんと判断できるのが当然の姿である。それなのに、議決権行使助言会社の意見も参考にするというのならともかく、議決権行使助言会社の意見を丸呑みにするというのは、「自分は素人や」と開き直っているに等しい。投資能力がないとみなされても仕方ないだろう。
一方、アセットマネジメント会社がパッシブに投資している場合(すなわち市場を完全に真似して投資している場合)、僕は議決権行使すべきでないと思っている。市場を真似するということは、企業のことを調べずに投資していることである。むしろ積極的な意義として、調べないことによって「コスト削減効果」を求めている。
このように何も調べてもいないのに、下手に議決権行使だけするのは、企業を調べて投資している投資家に雑音をまき散らすに等しい。パッシブな投資家に対して市場の価格形成の正しさを保証するのは、ちゃんと企業を調べ、選別する投資家の役割である。そのプロセスに雑音を立てれば、価格形成を混乱させてしまい、結局のところパッシブな投資が当初に意図した成果を失い、さらにポットントイレと同じでお釣りが来る。まあ、インデックス対比でのパフォーマンス評価しか行っていないだろうから(絶対値の評価を忌避しているだろうから)、「みんなで渡れば怖くない、みんなで轢かれれば痛くない」ということだろうが。
議決権行使助言会社の役割とは、あくまでも助言である。それが決定打にはならない。信用格付会社の信頼がサブプライムローンで大きく揺らいだことは記憶に新しい。そこからの教訓は、「投資家としての能力があるのなら、まず自分で調べろ」「格付けに全面依存するな」「格付会社が中立的に行動するとは限らない」ことだった。このこともあり、金融市場の監督機関は信用格付会社に対する規制を強化している。これと同様の問題が議決権行使助言会社にも内在している。少なくとも議決権行使助言会社に全面依存するのは、過去から何も学んでいないことになる。
以上、株主総会のピークの日に思った次第である。

2015/06/26


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