川北英隆のブログ

金融資産と事業資産の差異とは

今日、日本価値創造ERM学会の会合があった。基調報告の後、金融機関と事業会社のERM(企業リスクマネジメント)の差異に関する意見交換がなされた。全体として興味深かった。
とくに、保有する資産に関して、事業会社と金融機関との差異は何なのか、いろいろと考えさせられた。事業会社の資産の特徴として、流動性に乏しい(売ろうと思ってもすぐに売れない)、経営的な関与が重要(当然のことながら、その資産の活用に経営として工夫している)との視点が示された。それ故に、投資家も(とくに株式投資家は)事業会社の経営者を十分観察しなければならない。
その後、僕として少し考えていたのだが、事業会社の資産は分散効果が働きにくい(特定の事業の、特定地域の資産に集中している)との特徴を有していることに気づいた。つまり、事業会社の資産は環境の変化に脆弱なことが特徴だと言える。だから、同じことだが、経営的な関与というか手腕が重要との結論が導かれる。
この点、金融機関の資産(すなわち金融資産)は流動性が高く、売却が比較的簡単であり、金融機関の経営的な関与をあまり必要としていない。経営者が誰であるのかの重要性は、事業会社ほど大きくない。
とはいえ、金融機関にとって、市場が激変した時には金融資産の流動性が失われ、経営的な手腕を発揮しなければ脱出できなくなるかもしれない。また、シャープや東芝のように、巨額の資金を注ぎ込んでいる場合も、その先がこけた場合、金融機関としての経営手腕が問われる。言い換えれば、金融資産といえども、一定の閾値(環境変化や資産規模での閾値)を超えた段階で、事業資産との境界が曖昧になってしまう。その時になり、「誰がこの金融資産に投資したんや、責任者出てこい」となってしまうわけだ。
当然、金融機関と事業会社の資産の質と経営者の重要度が異なることは、リスクマネジメントの方法を違える。金融機関のリスクマネジメントは数理的なモデルのウェイトが高くなるだろう。これに対して事業会社の場合、組織や人材に関する事項のウェイトが高くなると考えていい。
以上、学会活動にあまり関心のない僕にとって、久しぶりに有意義だったという感想である。「その日本価値創造ERM学会の会長って誰や、アンタやないんかい」と言われそうだが。

2016/03/30


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