川北英隆のブログ

日銀は第二次世界大戦末期状態

いろんなところで議論していると、日銀の苦しみが話題の対象となる。政府の政策には目標だけがあり、そこに至る手段に合理性、現実性がない。日銀もまた、その政府目標の片棒を担いでいる。
まずは経済成長率について。この目標値が高く掲げられている。2020年に国内総生産(GDP)を600兆円にまで高めるとしている。目標値を高めに設定することは当然ありうる政策である。問題は、その実現可能性を評価することである。実現の可能性が低ければ、目標値と可能性の高い数値とを厳然と区別することである。
実現可能性に関しては、昨年10/20にこのブログで書いたように、ほとんど皆無である。画餅と言ってもいい。少し付言すると、現在の名目GDPが500兆円であるから、600兆円の実現に10年間かかったとしても、コンスタントに2%成長が実現できている。御の字である。もちろん、高インフレなどで経済が混乱すればすぐさま達成できるだろうが、そんなことを誰も(政府の1000兆円債務をすぐさま解消したいと考える御仁は別にして)望んでいない。
そうだとすれば、現実にどの程度のGDPが達成されるのかを別途計算し、それに基づいて政府の計画を立てなければならない。しかし、計画も画餅に基づいて作られている。公的年金の再計算が典型だろう。この点は「週刊金融財政事情」2014年8月18日号に「財政検証が前提とする生産性上昇率は楽観的すぎる」として書いた。参考にしてもらいたい。また、新しく公表された政府の財政見通し(歳入不足の解消に関する試算)でも同じである。
もちろん政府は、画餅を画餅でなくそうとして努力している。そのために年率2%の物価上昇を目標値として掲げ、黒田日銀に気張らせている。これが毎年80兆円もの資金を供給する政策であり、政策金利の一部をマイナス金利にして金融機関に無理やり資金を使わせようとする政策である。しかし、その効果は表れていない。そこで、7/29、日銀は新たな金融政策として、株式(上場投資信託、すなわちETF)の追加購入を決めた。
第二次世界大戦は戦略の失敗だとされることも多い。しかし、基本的には資源の乏しい国が戦線を広げすぎたことに原因がある。兵器の技術力で圧倒的優位にあったのならともかく、そんなことはありえない。人の数も鉄や油の量も圧倒的に劣っていたのだから、時間が経過すれば負けるに決まっている。人の数で優位に立とうとしたのが大東亜共栄圏という御旗なのだろうが、そもそも中国を敵に回していたわけだから、これも夢でしかなかった。残るは神国日本人としての気合だけという状態だった。
今の政府は日銀頼みである。初戦は黒田バズーカなる一種の心理作戦というか気合で多少の成果を挙げた。その後は、欧米や中国経済に翻弄される状態が続いている。日本が人口減少の過程にある現実からすれば、日本がある程度世界を牽引する形で成長していくのは無理である。他国の力を利用しなければならない。このため、世界の政治や経済情勢を冷静に分析し、日本の可能性を計測し、政策を打ち出すのが定石となる。現実はといえば、すべて自分でやろうというのに近い。
繰り返せば、日銀だけを頼りにしている。喩えれば、泥濘にはまった車を、エンジンだけをふかして脱出しようするのに近い。エンジンになった日銀は可哀想である。よりいっそう可哀想なのは、日銀のおかげで壊れた日本の債券市場であり、壊れようとしている日本の株式市場である。戦争もそうだが、最大の犠牲者は民間であり国民だろう。

2016/07/30


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