川北英隆のブログ

お笑いパッシブ運用

少し古いながら、6/15の日経新聞朝刊3面の記事を読んで笑ってしまった。その日に会った京都の来客には既に話したことである。何が可笑しかったのか。というか、馬鹿馬鹿しすぎただけである。
笑ったのは、東芝に関する記事である。今年3月末決算の有価証券報告書の提出を延期したいと金融庁に申請するのではないか。その観測だった。この記事に問題はない。多分そうだろうと、プロの投資家ならすでに想定していたに違いない。
この観測の下地に、東芝は3月末決算で債務超過に陥るという現実がある。東芝自身、それをほぼというか、確実にというか、認めている。昨年末10?12月期決算(監査法人の意見表明なしのもの)を見れば当然である。ただし、有価証券報告書の提出が延期されれば、公式の書類による債務超過の確定が遅れる。
一方、東証の規定上、決算期末に債務超過に陥れば一部上場企業が二部上場に指定替えされる(2期連続だと上場廃止になる)。東芝の場合、債務超過が確定していないため、まだ一部上場である。この状況に対して日本のプロ投資家は不満らしい。
「別に一部でも二部でも売買でけるのやろ」、「一緒やん」と思うのだが、日本のプロの自負は違うらしい。形式的な地位が重要なのだそうだ。
日経によると、プロの投資家は、「一部上場のままだと東証株価指数(TOPIX)に入り続けるため」、「(それが)不満」らしい。僕ら、素人には「何のこっちゃ」と意味不明である。
この記事の意味を推察するには、日本流パッシブ運用を理解していないといけない。パッシブ運用とは、株価指数を模倣する運用のスタイルである。
で、日本流パッシブ運用では、TOPIXを一寸一分の狂いもなく模倣しなければならないのだろう。この職人的というか、癇性病み的というか、この性癖を満たすには、東芝が東証一部に位置づけられているかぎり、東芝に投資しなければならない。たとえ(あくまでも仮定の記述だと念のために断っておくが)、東芝の余命が1日(明日になれば無価値になる)としても、東芝が東証一部である限り、今日も保有するのが日本的職人芸である。きわめて美しい。
片方で、日本のプロ投資家は、その投資が投資リターンを大きく引き下げることを理解している。そのくらいの計算能力はあるのだろう。
そこで日本のプロ投資家にとっては、「何だか変・・」というわけだ。このため、パフォーマンス悪化の矛先が東証に向かう。「何で早く二部にしてくれない」と叫ぶことになる。二部になれば、余命わずかな株式に投資しなくて済むという理屈である。もちろん東証は注意を促すため、東芝を「特設注意銘柄」に指定しているのだが。
このプロ投資家の論理が世間に通用するのだろうか。魚屋のある魚が痛みかけ、魚屋も「注意」を呼びかけている。しかし、プロと称する寿司職人が来て、「魚屋に並んでいるから、目をつむって全部値札通りに買う」、「少しでも痛んでいるのやったら、痛んでいるかどうか誰にも分からんから、店頭に並べた魚屋が悪い」と叫ぶことになる。「痛みかけの魚かも」と書いてあるのなら、素人でも買わないか、値切るに違いないのに。
これまでも日本のパッシブ運用について、いろいろと書いてきた。今回、ここまで日本流プロ根性が浸透しているとすればと、笑った次第である。投資家のために、日経が書きすぎたことを願っておく。

2017/06/16


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