川北英隆のブログ

CAPMは水戸黄門の印籠

ポートフォリオ理論の中で有名なCAPM(Capital Asset Pricing Model)について、そんなものをいまだに神棚に祭り上げ、拝んでいるヤツの気が知れないと、友人Oが息巻いていた。
そもそもの発端は、CAPMなど多くの伝統的理論が前提としている価格変動率の正規分布(左右対称の釣り鐘型の分布)性への批判にある。
もう少し言えば、Oは今の世界の株価が浮かれすぎで、どこかで暴落することを想定している。一度価格が大きく下落すれば、船が沈没するときに乗客が一斉に出口に殺到するように、投資家が一斉に株式を売るのがこれまでの経験であり、正規分布性が前提としているような、どんな状況にあっても投資家が冷静に売ったり買ったりしていると考えるのは幻想だとの主張である。
価格が大きく下落しても、冷静に買い向かう投資家が相当数いたなんて、実際にはなかったようだ。現実はファットテイル(fat-tail)である。つまり、正規分布と比較して、大きな価格下落率の実現する割合が相当高い。「50年に1度」、「100年に1度」なんて、気象災害の後講釈を含めて嘘である。
だからOは極端なOTM(out of the money)のプットオプションを買っている。これは、掛け捨ての死亡保険を契約したみたいなものと考えればいい。株価が暴落したとき、つまり相場が死んだら大金が入る。それも、「理論値の半分くらいの価格(保険料)で指し値をしているのに、その価格でプットオプションを売ってくるヤツがいる」と喜んでいた。
CAPMはノーベル経済学賞を受けた理論である。それにケチを付けるものでない。問題は、その理論を絶対に正しいと信じ、奉ることである。プロの投資家やファンドに意外に多いのではないか。CAPMの名を出された瞬間、「へへー」とひれ伏していないか。
水戸黄門の印籠やCAPMには芸術的・理論的価値はあるのだろうが、現代社会に適応していない可能性が高い。「徳川家って何者」、「印籠の中の薬が効くの」という質問や疑問と同じように、「正規分布が正しいの」、「CAPMが扱う市場って抽象的なもので、現実に当てはめるにはどうするの」という疑問や難問が常にある。

2017/09/30


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