川北英隆のブログ

株式市場での大罪は不問なのか

かつて同志社や京大で、大学1年生向けの初年度ゼミを担当させられていたことがあった。「今の高校はどうなってるんや」と思う一方で、1年生には「常識を疑うこと」を教えないといけないと思っていた。
高校は大学受験のための予備校ではない。大学に進んだとき、困らないようにするのが高校の役割である。知識を教えるのは、この1つのパーツでしかない。自分で考え、それを表現し、行動することを教えることで、大学に入ったときに役立つ。これが今の高校に欠けているのだろう。
僕の時代の日本史の悪口を書くと、「小学校の教科書と大同小異の知識の羅列でしかないことを、何で中学、高校と繰り返すんや」と、面白くなかった。今は、他の科目もこれに近いのか。
それはともかく、初年度ゼミの1つのテーマが「何故、殺人は罪なのか」だった。殺人をしても罰せられないどころか、褒められることもある。すぐ想像できるように、戦争が代表的な事例である。勝てば英雄になりうる。
つい先日、これと同じ現象が株式市場でも生じているのでは思ってしまった。インスペックという東証2部に上場している企業が、4年前、時価総額が小さくなり、上場廃止基準に抵触しそうになった。そこで、インスペック株に買い注文を入れ、株価を上げ、時価総額を大きくして上場廃止を免れようとしたというものである。これは偽計取引に相当するとして、東証は上場契約違約金を徴求した。なお、このケースでは株式を売却していない(売却することで利益を確定する行為をしていない)ので、相場操縦には該当しないらしい。
http://www.jpx.co.jp/news/1021/20170925-12.html
ふと思ったのは、現在も行われ続けている日銀によるETFの購入も同じではないかと。
金融政策として、株価の過度の下落を防ぐことは日本では過去にも例があった(1965年当時)。正しい行動かどうかは疑問ながら、「ある程度はしゃあないか」とも思う。現在の日銀による株式購入のそもそもの目的も、株価の過度の下落を防ぐことだったと理解している。
この点、日本の現在の株価はどうなのか。過度の下落とはまったく無縁である。そんな市場に日銀が輪転機の力に任せて買い注文を入れることは、インスペックの大規模バージョンではないのかと思ってしまう。
アメリカやヨーロッパの株価に劣後しないように、1部上場先進国の地位を失わないようにと。これが本音ベースの目的だとすれば、ますますインスペック的になる。問題は、誰が罰金を払うのかである。将来の国民であることはほぼ確かだろうが。

2017/09/30


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