川北英隆のブログ

潰れない日本企業は幸せか

今日、金融庁でコーポレートガバナンス・コードを巡る議論をしていた。コードを補完するため、「投資家と企業の対話ガイドライン」を作ろうというのが具体的なテーマだった。
最初に金融庁からガイドライン案の説明があった。それを聞きながらふと直感したのは、こんな細則を作ったとして、それは子供に箸の上げ下ろしを指導するに等しい。「自分は立派な大人だ」と思っている上場企業が、そのガイドラインを見て、「そうだ」とは決して思わないのではと。
もう少し言えば、コードとは知識レベルの高い者が低い者に対して示す手本である。ヨーロッパは根が貴族社会であるから、貴族が平民に対して手本を示すことは、ある意味で当然で容認される。その知識レベルの高い階層が示した手本に従うか・(従わないことを)説明するか、つまりcomply or explainという設定は、貴族対平民をイメージすると「なるほど」と理解できる。
アメリカにはコードなるものがない。あるのは自己責任原則に基づく規則(法律)であるが、同時に法律上グレーな(厳密に規定できない)部分があることを半ば公認している。だから、「書かれた」ルール内に100%に入っていなくても、多少のことは行ってかまわないと誰しもが思っている。そのグレーな行動で訴えられれば、反論すればいい。つまり、試行錯誤が当たり前の世界である。
これに対して、日本に貴族なんていないし、法律は「完全無欠なるもの」と信じられている。しかし、時代の変化が激しい中にあっては、規則を厳守することが堅苦しいだけでない。規則を遵守しているだけの企業が世界の流れからとり残されてしまう、いわば自縄自縛になるとの懸念が高くなっている。とはいえ、一定の規則が必要なのも当然である。
そこで生まれたのが、comply or explainという、ヨーロッパ方式を模倣した日本的ルール設定であり、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードである。でも、貴族がいない日本において、そんなコードに誰が心底から共感するのか。
そんなことを思っていると、会議の最後の方で、日立の川村さんが発言された。実は席が隣で、彼が何やらメモを書いていたので、何を言うのか興味津々だった。
実際の発言内容を短く書くと、「日本の大企業や組織には既得権益がある」、「その既得権益を守るため、大企業の事業の見直しが進んでいない」、「(日本企業の意識が変わるのは)日銀の政策転換で金利上昇が生じ、ゾンビ企業や大企業のゾンビ事業が淘汰される(端的に言うと潰れる)時を待たなければならない」というものだった。また、既得権益に守られた組織の事例として、大企業の他、医師会と農協を名指した。
川村さんが何を意識してそこまで大胆な発言をしたのかは不明である。思うに、東電という既得権益の権化のような企業の会長に新たに就任し、企業の意識改革に努められていることと無縁ではないだろう。
川村さんの年齢の限界と、既得権益のど真ん中で育ってきた元東電の主流派(守旧派)の存命と、どちらが勝るのか。何やら日本の命運の一端がかかっているようだが、実際のところ、東電が復活しようが消え去ろうが、日本の命運を大きくは左右しないのではないか。東電はローカルな話、日本の命運はもはや別の分野にかかっていると思えて仕方ない。

2018/02/15


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