川北英隆のブログ

定年年齢の延長の罠と矛盾

現在、65歳になって公的年金の支払いが開始される。この年齢に合わせるように、企業はこれまでの60歳定年を65歳まで延長しようと活発に動いている。同時に60から65歳までの給与を上げようともしている。後者に関して、諸手を挙げて歓迎すべきなのか。
これまで僕が見聞き、体験したことや新聞記事を総合すると、60歳以上の雇用は会社として「しゃあないから雇う」的なものだった。「しゃあない雇用」だから、それ以前と比べて地位や給与が大きく下がる。雇われる側としては嫌なことだから、僕の元の会社の同期には、「そんなん、やーめた」と宣言するのが何人もいた。
新聞記事では、60歳以上の雇用に関して、現在よりも少し待遇を改善するように検討している企業のことが書いてあった。とはいえ、その措置のとは、結局のところ60歳までとそれ以降の給与などの落差を緩和する程度のものでしかない。
以上の感想は表面的なものである。「何か変やな、もっと大きな罠があるな」と思わないだろうか。
政府は、同じ仕事をしているのなら、同じ賃金と処遇をしろと指導している(同一労働同一賃金の御旗)。では、60歳を過ぎた瞬間に待遇が劣化するのをどう考えればいいのか。僕としてはまともな説明を見つけられない。
待遇を劣化させる理由として考えられるのは、「50歳を過ぎてくると、能力の落ちてくる従業員が増えるものの、60歳まではこれまでの社内規則や労働契約上、その劣化に目をつむらざるをえない」ということかもしれない。
これが60歳以上に対して待遇を劣化させる本来の理由だとしても、同一労働同一賃金とは明らかに矛盾する。企業が従業員の能力と成果の評価を怠っているとしか思えない。
定年延長とか、そもそも定年制度そのものが、企業側(本質的には厚労省)の怠慢である。個々人の能力を正しく評価しているのなら、定年制度は不要である。ましてや、「60歳を超えたら待遇を落とす」なんて、完全な年齢を基準とした形式主義であり、何の評価も伴っていない。「アホやん」としか思えない。
ついでに書くと、60から65歳までの給与を一律に上げることで、副作用が生じる。
企業の給与総額には一定の予算総額がある。その前提の下、高年齢層の給与を上げれば、それ以下の年齢層に対して支払える給与総額が縮小する。結果は給与の引き下げとなる。
もちろん、企業業績がいいから、給与総額を引き上げ、その増加分で高年齢層の給与の増額分を賄おうということかもしれない。
そうだとしても、それ以下の年齢層に本当に影響がないのか。「影響なし」と考えたのなら、もう少し勉強した方がいい。端的に言えば、高年齢層の給与増額をなしにして、その分を下の年齢層にまわしてもらったのなら、その層としてハッピーになれる度合がアップする。
僕には関係のないことながら、若年層としては「経営者は何をしているのや」と怒るべき事態だと思えてならない。

2018/02/16


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