川北英隆のブログ

ESG活動と調査の不透明な関係

ESG(環境、社会、企業統治)を重視した投資が注目を浴びている。日本では公的年金がESG投資を本格開始したものだから、その巨額の年金資金を自社に向けるために躍起な企業が多い。
日本の投資家としてESG投資のより所としているのが、2005年に国連が公表した投資原則、PRI(Principles for Responsible Investment)である。この投資原則に基づき、2006年にPRIというNGO組織(Non-Governmental Organization)が発足した。
組織としてのPRIは、投資家がESGを意識し、その上で投資プロセスを実行するための組織だと位置づけられている。この点は森澤充世「国際的なESG投資の動向と日本での進展の考察」(証券アナリストジャーナル2016年7月号)に書かれている。
このNGOとしてのPRIに加盟するよう、公的年金が法人投資家に半ば強要した。女将違う、お上の要請に「ノー」と言えないのが、少なくとも「少し考えさせて」と言えないのが日本企業の最大の弱点である。組織としてのPRIに加盟するには少なからずコスト(会費)がかかるのに。しかも、業界通に言わせると、会費が急激に値上がりしたとか。
最近、この組織としてのPRIに関する新たな情報が入った。CDP(Carbon Disclosure Project)という、やはりNGO組織に関する情報である。CDPとPRIのメンバーはほぼ同じだという。確かに、少し見た限りでは大きな差がない。
CDPが対象とするのは、そもそもは名前のとおり、CO2排出に関する企業調査と分析だった。それが今では環境全般に広がりつつあるらしい。調査はアンケートに基づく。かなり詳細な質問が設けられていると聞く。
このCDPが、調査対象企業に対して費用の徴収行い、この方式を日本でも始めたとの記事があった(日経ビジネス2018年9月21日号)。「企業にとって、CDPの質問への回答が投資家によるESG投資を促し、企業にとっての利益として還元される」との趣旨の発言を、PRIの日本代表であり、CDPのメンバーでもある、先の森澤充世氏がしている。
しかも、CDPでは、回答企業の評価を引き上げるためのコンサルティングを、CDPのスコアリングパートナー(企業の回答を採点する法人)が行っているらしい。日経ビジネスの記事では、利益相反は意識しており、コンサルとスコアリングを同じ法人が行わないようにしているとは書いてあるが。
業界通が言うには(僕もそうかなと思うのだが)、投資家、投資先企業、コンサルという関係者すべてを取り込んだ大きなビジネスモデルが動いているようだ。「マッチポンプ」という表現をしていた。相乗効果を狙っていると言えば聞こえがいいものの、その効果が誰に対する効果なのか。組織としてのPRIとCDPが同じメンバーで構成されているというのも疑問だと指摘される。
一般論として、調査への回答の評価結果を外部(つまり投資家)に有料で提供しつつ、その評価を上げるためのコンサル、つまり助言をしてはいけない。たとえ「それぞれの担当法人」が別であっても、組織全体としての情報のファイアウォール上、問題が多すぎる。
ということで、以前からPRIを神棚に祭り上げている日本の公的年金や投資家は、少なくともその神様が本物かどうか、もう一度(初めてかもしれないが)検証する必要があるのではないだろうか。

2018/09/26


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