川北英隆のブログ

東証第1部に残れない企業とは

金融庁が東証での株式上場制度の見直し案を示した。見直しの対象となったのは株式市場の区分である。市場1部、市場2部、マザーズ、ジャスダックと乱立していたのを3つに整理しようと議論し、その報告書が一昨日、クリスマスプレゼントとして届いたのである。
見直しの最大の注目点だったのは、今の東証第1部をどうするのかである。現在の東証1部には2150社以上が上場している。その2150社の規模も質も千差万別である。トヨタのように世界で堂々と戦っている企業もあれば、行儀の悪い企業、ようやく息をしているような企業も少なからず混じっている。
相当数の投資家はこの議論に大きな期待を寄せていた。東証第1部が粒ぞろいの市場に変身するのではとの期待である。その期待していたクリスマスプレゼントなのだが、結果はといえば、期待していたほどでなかったというのが正直なところか。
その新しい東証第1部だが、案では「プライム市場」と名付けられた。現在の第2部相当の市場は「スタンダード市場」、マザーズとジャスダックのうちの成長期待企業の市場は「グロース市場」との名前である。第1部、第2部という現在の名前が上下関係を示しているのではとの配慮から、あえて英語を使ったのだろう。
プライムにも「第一の」とか「優良な」とかの意味があり、同じなのだが。それに対するのがスタンダートであり、サブプライムでないところが味噌か。
そのプライム市場、新1部市場の評価について、識者である知人(KT氏)から届いた表現を引用しておきたい。僕の表現でない。変な物議を醸し出さないための対策でもある。
曰く、「既上場の企業の降格は行わず、新規上場のみ基準を厳しくする考えとあります。・・経過措置のため(本来降格すべき銘柄も含む)インデックス(注:東証株価指数のこと)は投資家にとっては非効率な指標でしばらく運用されることとなります。上場企業(注:現在上場している企業のこと)重視で、投資家への配慮が足りない動きと考えます」と。要するに、現在の東証第1部がほぼそのまま、新1部市場に移行しそうなことに対するコメントである。
誤解のないように言っておくと、現在の東証株価指数(TOPIX)も改変され、東証第1部上場企業=TOPIX構成企業とはならない。時価総額(正確には市場で売買される可能性のある流通株の時価総額)などを用い、基準に満たない企業は排除されそうなのだが、この排除にも経過期間が設けられ、最終的な姿になるのは今から3年近く後のようだ。
思うに、現状維持に近い新1部市場の案が示された背景には、上場企業からの圧力が相当あったのではないだろうか。金融庁での議論においても、東証第1部での上場はブランドになっているとの異見違う意見が多かった。
「でもね」と思う。「実態、すなわち業績と投資家の評価の伴わないブランドとは何か」、「メッキみたいなもの」、「ある意味で詐欺的」だろう。
そんなメッキ的なブランドにだけ頼れば経営が傾く。従業員に払う給与がアジアの発展途上国にも劣る水準に成り下がりつつある現実もまた、見栄を重んじ、あらぬ方向というか蜃気楼に向かって経営してきた結末である。本来は、実力で新1部市場に食い込むため、投資家の評価を上げ、株価を上げるのが正しい経営である。
従業員とすれば、そんないい加減な企業に見切りをつけないといけない。見切るために、しっかりと手に職をつけないといけない。
話題がそれたものの、新1部市場の議論にはいろいろと考えさせられる。

2019/12/26


トップへ戻る