川北英隆のブログ

株価評論の記事は誇大で

日本の株価指標が最高値を付けたのが1989年12月末である。明日、それから30年後の大納会である。そのせいか、今日の日経1面トップには、「バブル30年 成熟した株」との見出しと、今が株の買い時と言わんばかりのグラフと記事が踊っていた。
正確には、日経平均株価の最高値が1989年12月末、大納会の日だった。東証株価指数(TOPIX)はその12月の中旬だったと記憶している。
この記事、大きく間違ったことを語ってはいないのだが、前のめり過ぎる。
事実の検証として2つのことをやり、その2つがグラフ化されている。「でもね」であり、そんなことをグラフにするまでもないし、変な誤解を与えかねない。
1つは、「最近の日本株は身の丈に合った水準に」との表題で、国際的な適正水準と日本の株価水準とを比べているグラフ。「何を適正水準だとしているのかな」と見たところ、株価収益率(株式時価総額/当期純利益、PER)15倍を適正とみなし、グラフ化しているにすぎなかった。
PERに適正な水準があったとしても、それは利益成長率への期待で大きく変化する。30年間15倍が適正のままというのは変だし、現時点での日本株の期待成長率からして適正PERが15倍だという保証はどこにもない。
事実として言えることは、日本の今のPERが15倍に近いということと、世界の平均値から大きく離れていないということである。要するに日本の株価水準は説明可能な範囲にある。とはいえ、1割や2割の株価の水準訂正はいつでも起きる。
もう1つは、「割安な時の長期投資は報われやすい」との表題のグラフ。少し複雑に加工してある。どういう計算をしたのか見たところ、「?2000年から2009年の各週のPBRが何倍だったのか、?当時の株価が10年後に何倍になったのか」をグラフにしているらしい。?が横軸、?が縦軸である。
ここで、株価純資産倍率(PBR)が「株式時価総額/純資産」であり、純資産が徐々にしか増えないことからすると、株価水準がPBRの水準を大きく変動させることに注目すべきである。つまり、グラフの縦軸(株価上昇率)は当然として、横軸のPBRにも株価水準の上昇が効く。言い換えれば、このグラフの縦軸を少し変え、10年後の(2010年から2019年の)PBRとしても同じ形状のグラフが描けるだろう。大雑把に言って、純資産が毎年3、4%程度増えるとすれば、10年間で純資産が40%程度増えるだろうから、全体としてのグラフは4割程度下に移動するだろうが。
ところで、2012年末から日本の株価は上昇に転じた。さらに言えば、2009年の春から世界的に株価が上昇局面にある。とすれば、2010年から2019年の株価が、その前の10年間に比べて上昇していて当然である。つまり、「この10年間、株価が上昇しました」というグラフを見せられたことにほぼ等しい。「何のこっちゃ」である。
ついでに書くと、欧米先進国と比べ、日本の株価上昇率は低い。どうせなら、グローバルな株価動向をグラフ化すべきだった。とはいえ、シャビーな日本の状況を日経の記事にするわけにいかなかったと推察する。
この記事のすぐ横に三井物産の安永社長のインタビュー記事があり、「日本をベースに物事を考え、日本人の視点で判断していては、グローバルスタンダードに追いつけない」と喋っている。この発言は人材に関してのものなのだが、株式投資はもっとグローバル化している。皮肉な記事の配置である。
後日、グローバルに見た世界の株式市場の状況を示したい。

2019/12/29


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