川北英隆のブログ

貧乏は事なかれ主義の結末

今日の日経新聞の一面トップ、見出しは「世界一律価格、日本へ」「消費者負担 一段と」だった。ネットフリックスが値上げしたため、日本での価格が欧米に近づいた。結果として、所得水準との比較で日本価格が相対的に高くなった。iPhoneも同様だとある。
世界的な健康食ブームで魚の取引価格が高くなり、日本が競り負けている。その結果、少し高級な魚を食べられなくなりつつある。思い出すと、コロナの前、海外旅行者が大挙して日本にやって来たのは、国内のホテル代や食事代が安いからでもあった。
日本での生活費が安いことを「ありがたいこと」と思ってしまうのは、目先のことしか考えていない証拠である。お粗末な政治家的でもある。日本での生活費が安いのは、結局のところ賃金が安いためであり、高くすると売れないからである。
コロナの前に心配したのは、「このままでは食堂やレストランはじわっと値上げするだろうから、中の中のクラス以上は外国人御用達になってしまう」「日本人のほとんどは大衆食堂や牛丼屋にしか行けなくなる」事態だった。
コロナが蔓延した最近、持ち帰り弁当が流行っているので、時々利用するのだが、500円程度のものが豊富である。日本人の懐具合を象徴している。
それはともかく、賃金の上がらない理由は何なのか。日本企業同士が過当競争で、国内では大して儲かっていないからである。賃金を上げるとますます儲からなくて苦境に陥る。
この点はある有名大企業の経営者もこぼしていた。「国内では多くの企業がピンキリで残っている。だから儲かない。もっぱら海外で儲けている」と。いかにも国内から撤退したい様子が言葉の端々から漏れていたものの、それは諸般の事情からできないのだろう。
もちろん、賃金が上がらなくても、最後まで生活費が安く済めば問題ない。しかし冒頭に述べたように、今の日本の生活にネットフリックスやiPhoneがないなんて考えられない(僕は使っていないが)。もちろん食料やエネルギーを輸入しなければならない。それらの価格は、世界の生活水準の向上にしたがい、日本の実情におかまいないに上がっていく。
つまり、日本人の生活水準が相対的に劣化し、近い将来には貧乏国化が待っていることになる。日本国民の乗った舟が泥舟で、それが崩れ、沈んでいくことか。泥舟が言い過ぎなら、水が入ってくる古びた舟か。
日銀が2%のインフレを切望し、超金融緩和を続けているのに、実際はインフレが(それも国内発の良いインフレが)実現しないのも、企業業績と賃金がネックになっている。日銀はこの実態にどこまで気づいているのだろうか。
解決策はあるのかと問えば、国内の企業を筋肉質にし、儲かるようにすることに尽きる。筋肉質になった企業の儲けを従業員に分配する、つまり賃金を上げることが肝要である。従業員の懐が潤えば消費が活発になり、少々高くても物やサービスが売れ、企業が儲かり、一層賃金を挙げられるようになる。この高度成長期を彷彿とさせる良循環をつくらないといけない。
具体的には国内企業を間引くことになる。杉や桧の林を間伐しないと(間引かないと)、すべての木がひょろひょろと育ってしまうから、良質な木材にならない。間伐すると、本数は当然少なくなるが、立派な木が育つ。それと同じである。
では誰が企業を間引くのか。それは政府であり、日銀の役割でもある。しかし、もっと重要なのは企業の努力である。儲からない事業を売却し、儲かる事業を買収することである。そうすれば企業としての力が蓄えられ、海外へ進出する余力がもっと生じる。
一方の間引かれた事業部門と従業員はどうなるのか。買収先の企業に移ることもあろう。またその事業が縮小するか消滅し、従業員が転職を余儀なくされることもあろう。でも、世の中はそんなものである。終身雇用なんて、僕の知る限り夢物語なのだから(もしくは経営者が語り聞かせる竜宮の世界なのだから)、転職を強いられると覚悟の上で、もしくは今の就職先はキャリアパスの一環だと割り切り、そんな事態もしくは機会に直面した場合に活用できる能力を日頃から高めておくことである。
もっと言うと、従業員として、儲からず、給料も上がらない仕事に就いていたところで楽しいはずがない。それに、人口減少社会とは、能力さえあると、就職口なんてわんさかある。
この四半世紀、政府や日銀を中心に企業を間引かない方針を強めてきた。倒産させないことでもある。大企業が左前になると、雇用を守るとの大義名分で経営に関与し、資金(つまりは税金)を注入してきた。倒産も雇用不安も世間を動揺させる。そうなれば政策批判が噴出する。逆にとりあえずのところ左前企業を助ければ、世間の動揺を防げ、政府も政治家も当面安泰である。言い換えれば事なかれ主義に徹してきたわけだ。当然、倒産しない企業経営者も安泰である。
その結果はひ弱な経営者、自分の利益中心の経営者の続出である。従業員の多くも終身雇用を夢見てきた。白昼夢に近い。とどのつまりは、冒頭に述べたような日本の安売りであり、貧乏化である。当面の動揺は防いだものの、要するに問題の先送りでしかない。むしろ、問題をより難しくしてしまった。
「あああっ」と思い、せめて自分だけはそんな泥舟に乗らないようにしようと思う。でも日本に住むかぎり、とばっちりは受ける。せめてもの自衛策を変え替え、講じることが必要だろう。

2021/06/22


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