川北英隆のブログ

欧州は真の政治対応を示せ

ヨーロッパはESG(環境、社会、企業統治)の旗手になろうと振る舞ってきた。国連が提唱するSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標))の具体化でもある。しかし、「ヨーロッパの行動には何か裏がある、うかうかと乗れない」と思ってきた。
今回のウクライナの問題で、その裏が見えたように思う。衣の下の鎧である。
ヒグマの国の王様に対して欧米が制裁を課している。しかしいまだにエネルギーの輸入は止めていない。輸入代金の精算ができるようにと制裁には穴が開けられている。ヒグマの王国からの天然ガスなどの輸入が止まれば、経済が大変なことになる。そうドイツを中心に反対の声が強いそうだ。この「経済」こそESG、とくに二酸化炭素排出量削減によるE(環境)への貢献を声高に叫んできたヨーロッパの本音であり、鎧だろう。
このヨーロッパの鎧の議論はいくつかの論点から可能である。
1つは、ヒグマの王国からの天然ガスの輸入にヨーロッパ自身が大きく依存していることに目をつむったまま、石炭廃止に大きく舵を切り、脱石油へのシナリオを描いた事実である。ヨーロッパにとっての見栄であり、E(環境)の観点から世界を引っ張ることで、ヨーロッパに経済的利得をもたらそうとの戦略だったようだ。ヨーロッパにとっての理想である。
この点は国際的に統一された会計基準(国際会計基準)を作り、世界の経済活動の記述(すなわち財務諸表の作成)をリードしようとした戦略と似ている。国際会計基準は理想の追求であり現実には矛盾が多いと思っている(代表的な事例は会計士による「のれん」の価値の推定)。この説明は省略する。
今回の出来事により、ヨーロッパのエネルギー政策と二酸化炭素排出量削減は大きく狂った。エネルギー価格の高騰がヨーロッパ経済に重くのしかかる。理想の破綻である。
もう1つは、先に述べたようにヒグマの王国からのエネルギー輸入を継続したいと考えている事実である。要するにEUの経済が最優先であることを表明している。ウクライナがどうなっても構わないとは言い過ぎかもしれないが、二の次であるのは確かである。視点を変えると、ウクライナの問題はS(人権などの社会的尊重)の重大な侵害である。ヨーロッパはそのSに最大限の関心を払っていないことになる。
そして、この点が重要なのだが、ヨーロッパとしてEとSを両立させ、ESGの旗手としての名声を保てる手段があるにもかかわらず、それを無視しているか見落としている事実である。
その手段とは、ヒグマの王国からのエネルギーの輸入を止め、一方でEUの住民に「当面の間、エネルギーの節約と耐乏生活を」と訴えることである。そうすれば、ウクライナに大きな支援を送ることができる。同時に直接的な二酸化炭素の出量の削減になる。
どうしてドイツはこれができないのか。フランスが提案しないのか。ヨーロッパは危機の中心に位置している。そうであるから国民に多少の耐乏生活を訴えたところで何の問題もない。真の政治家なら、また隣りの国が困っているのなら、当然の政策だろう。隣りの国に武器を送り、「これで戦え」と言うだけでは卑怯者でしかない。

2022/03/08


トップへ戻る