川北英隆のブログ

経済教室への素晴らしい感想

7/29の日経新聞「経済教室」に「企業選別・長期投資こそ本筋」を寄稿した。岸田内閣が打ち上げた「新しい資本主義」の1つの柱、個人金融資産の「貯蓄から投資へのシフト」とそれによる「資産所得倍増プラン」へのコメントである。と、素晴らしい感想が届いた。
経済教室そのものは新聞を見てほしい(筆者といえども大々的にブログにアップできないと思う)。
大筋はこのブログで書いてきた線に沿っている。6/26から6/28にかけて長期投資について書き、7/21と7/22にPBRの1倍割れについて書いた。これらはある意味で今回の経済教室の下書きというか素材だ。内容は次のようにまとめられる。
1つに、個人資産金融の「貯蓄から投資へのシフト」を言うのなら、その場合の投資とは株式(投資信託を含む)の長期投資でしかない。株式を短期に売買することを投資と呼ぶべきでない。
「単純に株式投資だ」と言った瞬間、多くの国民は「株式を安値で買って高値で売ること」だと思ってしまう。この短期売買を投資家全体から見るのなら、「誰かの買いは誰から売り」なのだから、「誰かの益は誰かの損」であり、結局は誰も儲からない。手数料などを差っ引くと、投資家全体としての投資収益はマイナス、つまり資産所得は預金金利未満、赤字である。
短期売買は投資ではなく、投機だから当然である。もちろん、「短期売買は投機だ」というには、さらに細かな前提が必要なのだが、大筋では外れていない。
2つに、株式の長期投資は経済の成長、つまり企業の成長を享受できる。
言い換えれば経済や企業が成長するのなら、長期に株式を保有することで、配当が増え、株価も上がり、プラスの投資収益が得られる。この点は6/26のブログのグラフで示した。
だから政府として「貯蓄から投資へのシフト」を打ち上げるのであれば、正確に「銀行預金から株式の長期投資へのシフト」と明言しないといけない。
3つに、では長期投資ならどんな企業の株式でもいいのか。これは間違いである。企業選別が求められる。
長期投資ともになれば、極論すれば企業と苦楽をともにする。付き合う相手企業を選ぶのは当然だ。ではどのように選別するのか。この点はいろんな方法があるし、「確実だ」と断言できるものがない。もしも確実な方法を知っていたのなら、巨万の富を築けている。
今回の経済教室では、その例として「長期間、PBRが1倍を割れている企業、つまり経営が凡庸な企業は避けよう」と書いた。長期にわたりPBRが1倍を割れるのは、多くは、その企業の営む事業が、投資家の求める利益率(資本コストという)を稼げていないからである。付言すると、上の「経営が凡庸」との表現は投資家からすると柔らかすぎる。むしろ「ダメ企業」なのだろうが。
4つに、提言として、政府は株式長期投資に対する税制を短期売買税制よりも優遇すべきだと書いた。たとえば長期と短期で税率を違えることである。NISAやiDeCo制度の拡充は、株式長期投資優遇の一環、一例でしかない。
ついでに、政府としては「PBR1倍未満の企業への叱咤が必須となる」と書いた。企業の質を高め、個人が安心して長期投資できる株式市場にするためである。
そこで今日のブログの冒頭に書いた「素晴らしい感想」が登場する。知り合いのMR氏からメールで届いた。「『叱咤』ですが、『激励』がないところがいいですね」とあった。
まさにそのとおりである。よう知って(意図的に)激励を外したのだから。メールへの返事に次のように書いた。「『いい加減にしろよ』という企業が日本に多すぎますね。そんな企業を日銀はETFで買うし、東証はプライムに入れるしで・・」。つまり日銀や東証はすでに激励をした。次は叱咤の出番である。

2022/07/31


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