川北英隆のブログ

バラマキは政府を利するか

消費者物価が上昇を続けている。1/27に公表された1月の東京都区部の消費者物価(生鮮食品を除く)は、前年の同じ月と比べ4.3%上昇した。1981年以来の率だとか。主要な品目の上昇率は、エネルギー26.0%、食品(生鮮除き)7.4%、生鮮食品6.5%となっている。
エネルギー価格の上昇率が高いのは、直接的にはウクライナへのヒグマ王国の侵略と円安の影響である。これは石油などの燃料価格を上昇させる。当然、ガスや電力にも影響が生じる。
これに対して政府は、まずガソリン価格に反応した。170円程度に抑制するため、昨年1月から石油元売り会社に対して補助金を支給し、今も続いている。ガスや電力については、今年1月利用分から、ガス会社や電力会社を介した家庭や企業への補助金の支給を開始するそうだ。
ガソリン価格に対して、政府が素早く動いた理由は定かではない。ひょっとして自動車業界への配慮かもと想像できなくもないが、不明である。
さて、ガスや電力に対する補助金によって、家庭の電気代は2割、ガス代は1割減るという。また消費者物価の上昇率を1%引き下げる効果があるらしい。ただし、今のところ今年9月分までである。
以上の補助金政策はバラマキである。というのも所得水準に関係なく政府が支払うから。少し考えればわかるように、ガソリン、電気、ガスは、所得が高い家庭ほど大量に使うだろう。高所得者の高級車と田舎の軽四を比較すればいい。高所得者の家では大型テレビ、大型冷蔵庫などがあるし、複数台あるかもしれない。冷暖房完備、この寒い時期には床暖を一日中入れているかもしれない。
とすれば政府の補助金額は高所得者に厚くなる。低所得者には、消費額全体に対する率はともかく、金額は少ない。このような補助をするのなら、所得をきちんと把握した上で、一定水準以下の者を対象にするのが本筋である。今回はそうではなく、初期のコロナ補助と同様というか、それよりも高所得者に手厚いから、バラマキ以上である。
政府が物価上昇を阻止したいと思う理由は何か。うがった見方をすれば、物価抑制は政府自身を利する。というのも、日銀が消費者物価の2%の恒常的上昇を目指して超金融緩和を継続しているのだから、エネルギー価格の上昇を一過性のものにできれば、超低金利も永続する。国債の金利も上がらず、1000兆円を超す国債への利払い金額が少なくてすむ。
企業としても文句はない。補助金をもらう企業はもちろん、そうではない企業にも恩恵がある。物価が上がらない。だから賃上げに対する要求も激しくならない。
よく考えて見れば、日本企業が補助金漬けになることは国際競争力上、日本企業を弱体化させる。省エネを怠り、生産やサービスの機械化が遅れる。新しいエネルギーや機械化技術の開発も遅れる。
さらに賃上げをしなくても、「賃上げもせんような渋ちんで情けない会社は嫌や」と社員が逃げてしまうのを防いでくれる。社員が発奮しないと、その能力も上がらない。だから日本全体の衰退を加速させる。
エネルギー価格の急速な上昇を抑制することは必要だろう。今回の政府の政策は、その必要限度を超えている。その方法も稚拙である。目先の人気取りでしかない。
財源がふんだんにあるのならともかく、借金大国になった今、さらに無駄な借金を重ねるのは将来の禍根を大きくするだけ、糖尿病患者が砂糖をたらふく口に入れるようなものか。

2023/01/28


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