川北英隆のブログ

トロい奴ほど急がせる

トロいとは、いわゆるカメさん(カメさん、ごめんね)に近い行動である。本当は「とろい」と書くべきだろうが、「トロイカ」とあだ名した姉ちゃんがいたから、カタカナ混じりで書いておく。ちなみにトロイカとは、歌詞にある「走れ、トロイカ」にちなんだ。
それはともかく、ずっと前から感じているのは締め切りの不思議である。
たとえば「2日後に提出」と命じられるのに、「ええっ、そんな急がされても、他の予定もあることやし」と思いつつ交渉してみると、実際の最終期日(デッドライン)までかなり余裕があったりする。昔は「奴がサバをよんでいるのや」と思っていたのだが、何十年もの亀的な経験を積むうち、サバだけではなく、能力の問題もあると感じるようになった。
命じる側を「奴」、命じられる側を「下っ端」としておく。奴は上司に仕事を命じられ、そのデッドラインも与えられたとする。一方、その仕事をこなすには数人の下っ端に下請け仕事を命じないといけない。この時、どうするのが奴にとって楽なのか。
本来、奴は下っ端の仕事のスピードを予測し、自分自身の仕事のスピードも計算し、デッドラインまでの時間割を決めるのが正しい。でも、そんな能力が奴にあるとは思えない。そこで、奴にとっての次善の策は、下っ端を急がせ、奴にとっての十分な余裕を確保することである。当然ずる賢いから、下っ端の下請け仕事が「少し遅れる」ことも計算に入れている。後者がサバに相当する。
言い換えれば下っ端の能力が自分並だろうと、暗黙のうちに感じていることにもなる。奴の仕事がトロく、下っ端の仕事もトロいとすれば、まずは下っ端の下請け仕事のデッドラインを厳しく設定し、「早く出せ」と尻を叩くのが正しいとの結論になる。何人かの下っ端がデッドラインを守ってくれれば、奴自身の仕事にも早めに着手できる。
そんな「トロい奴と、トロいかもしれない下っ端との関係」が何重にも形成されればどうなるのか。締め切りの形成と、締め切り近くで何重ものムダな時間とムダな仕事が形成されるだろう。
これが今の日本社会の構造だとすれば、きわめて嘆かわしい。僕が経験してきたかぎりでは、日本がその嘆かわしい状態に近いのも事実である。

2023/06/30


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