川北英隆のブログ

山での危険・熊

最近、知人と飲んでいると、続けさまに同じ質問を受けた。「山で危険な目に遭ったか」である。ぼちぼちそんなことを問われる年齢になったかと思いつつも、危険な目の記憶をたどり、何回かに分けて記しておきたい。最初は、今が旬の熊である。
子供の頃から山には熊が付き物だった。奈良県の洞川だったか、旅館に熊かカモシカの毛皮があったし、剥製もあったと脳裏におぼろげに浮かぶ。それが最初の出会いかもしれない。
大台ケ原を父親に連れられて歩いた時、「熊の爪痕や」と教えられた。父親が熊を見たことがあるのかどうかは確かめていないから、真偽は不明なものの、大きな木の幹に確かに熊のものらしき爪痕が付けられていた。
最初に熊を見たのは(昔の記録をたどらないと確定しないが)燕岳か有明山からの帰り、タクシーの中から見た。山道の横にいた熊が車に気づき、少し並行して走りながら森へと逃げた。タクシーの2mほど先だった。
次は日光の赤薙山か大真名子山だったかと思う(確定するには上と同様である)。遠くの木の幹に登っていた熊の姿が鮮明に残っている。我々が近づいたのを見て慌てて木から下り、藪の中に消えた。
3回目は日光の南、笹目倉山から鶏鳴山への稜線だった。熊が慌てて山腹を走って逃げていった。
以上は危険ではなかった。一番危険だったのは北海道の暑寒別岳だった。地元の猟師と一緒だったので安心していたのだが、熊の歩いた跡を複数回見た。最後はお花畑から10mほど離れた茂みの中に熊(ヒグマ)が潜んでいた。僕がそう思い、猟師に伝えると、確かにいるとのことだった。相手は警戒し、潜んでいるらしかった。我々は茂みの方を睨みつけながらゆっくりと離れていった。
熊の気配を感じたこともある。前にも書いたが、北アルプス朝日岳から下りであり、大阪の猪名川というか兵庫の宝塚の奥というか、そんな関西の山中である。
それで思い出したことがある。浅間の横の黒斑山付近を登っていると、少し先の岩陰で動物の鼻息がする。熊か、脅しているのかと、そっと遠巻きに岩に近づいてみると、カモシカが2頭いた。目が合った。その瞬間、彼ら(彼女もいた?)は一目散に坂道を駆け下っていった。実はこの時が一番危険だったかもしれない。相手が熊でなくて良かったという意味で。

2025/11/13


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