川北英隆のブログ

上場企業と殿様蛙の世界

少し旧聞ながら、1/27の日経(ネット会員限定とか)に山道氏(やまじ氏、東証というかその親分、日本取引所の最高責任者)が上場企業に対して、「現預金の活用法、説明を」と話したとか。「それはそうやけど、隔靴掻痒、部下が実務を知らんな」と思ってしまった。
上場企業が現預金(それと同等の資産)を大量に蓄え、多くの場合、それを有効に使えていないのは確かである。しかし、蓄えたものを「使え」とか「どうするんや」とか文句を言うのは、後出しジャンケンで勝とうとするものでしかない。現預金を蓄える前に文句を言うのが筋である。
つまり、儲けのうち、企業がいくらを配当として(もしくは発行済株式の消却として)株主に払うのかを決める段階で、「待った」と注文を付けるのが本来の方法である。
法的にも、株主が企業の利益処分案に対して「反対や」と投票することが可能である。企業が貯め込んだ現預金に対して東証が文句を言いたいのなら、大口の投資家(たとえば公的年金やその金庫番である機関投資家)に対して、「投資のプロやったら企業に対して、どういう了見で現預金を貯め込むのや、成長投資に使わないのやったら配当に回せやくらいの文句を言うたらええやろ」と議論をふっかけるのが正しい。
そこで文句を言わず、現預金を貯め込んだ後の企業に文句なんて、「なんのこっちゃ」である。日本の大人しいサラリーマン会社の多くは、その後出しジャンケンに対して「東証はんには負けるわ」と表向き言うのかもしれないが、結局は「はい、はい」と形式をつくろうだけに終わるだろう。
そもそも法律やルール(原則を示す手法としてのコーポレート・ガバナンス・コード、スチュワードシップ・コード)の作り手としての東証や金融庁は法律屋ではあるが、投資に関する実務家集団ではない。だからルールを決めれば物事がそれに沿って動くものと思っているのだが、実のところ、微妙な齟齬がありうる。今回の「現預金の活用法、説明を」が、その好例になりうる。というのも、投資理論的に則していないからだ。
そんな隔靴掻痒を繰り返しているから、日本企業が世界に遅れていく。賃上げに対しても、本当は上場企業の労働分配率(企業が生み出した価値に対して、何割を賃金としていくら払うか)をちゃんと計算できるようにしてほしいと、僕はずっと叫び続けてきた。しかし今のところ無反応に近い。
一方で政府が音頭を取り、「賃上げを」と叫んでいる。労働組合はその政府の声に後押しされたのか、賃上げと小さく呟くようになったが、労働分配率のことは無視を決め込んでいる。賃金も配当もともに、分配に生じている大問題である。当事者(賃金は労働組合、配当は投資家)が声を出さない世界に、本質的な改革はない。
日本はどこか変である。実務を知らない頂点の組織と、その「ブレイン」というか「無礼」が、「上意」とばかりに権力を振るおうとしているのかもしれない。でも、それはまさに井の中の蛙、殿様蛙の世界、グローバルな経済の中では「そっぽを向いた動き」でしかない。と、またしても東証さんに嫌われることを書いてしまった。

2026/01/31


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