川北英隆のブログ

新規上場と上場廃止の非対称性

新規上場と上場廃止に関する審査は取引所ではなく、日本取引所自主規制法人が行う。取引所自身が審査したのでは(猫に悪いが)「猫に鰹節」の懸念があるので、独立した組織が担当している。
これが今の法律の建付である。このため、法律を見ると確認できるように、日本取引所自主規制法人の組織と意思決定が、取引所からの独立性を確保するように定められている。主な事例を示しておく。
日本取引所自主規制法人の定款には、理事の過半数は外部理事(外部理事は金融商品取引法で定義)でなければならないと定められている(第20条)。加えて外部理事はさらに絞り込まれ、取引所の業務や上場企業と直接の利害関係のない者とされる。要するに外部理事とは証券取引に関する利害関係なしに、独立した判断を下せる者とされていることになる(そんな完全無欠の者がどこにいるのやという批判もあろうが、それは無視しておく)。
理事会での決議に関しては、議決に加わることができる理事の過半数が出席し、その過半数、かつ出席した独立理事の過半数をもって行う(第32条)とされる。現在、理事の人数は7名、うち外部理事は4名である。ということは、現状は外部理事の2名が議案に反対すれば、その議案は可決されない。きわめて厳しい。
もっとも反対した2名が新たに議案を提出したところで、その2名だけで提出した議案が成立するわけでない。
以上の事実は重要である。仮想の状況で考えてみたい。昨日、ふと気づいたことである。
新規上場の審査の場合、事務局が「上場してもいい企業では」と提案したところで、外部理事の2名が反対すれば、その新規上場は認められない。それで終わりである。
一方、東芝を仮想の例に挙げて申し訳ないものの、事務局が上場廃止には該当しないと(正確には特設注意市場銘柄への指定解除を)提案したとして、その議案に、たとえば外部理事の2名だけでも反対すれば、特設注意市場銘柄への指定が継続される。ただし、この決議が上場廃止の決議とはなっていないことに注意したい。
上場廃止に相当すると考えれば、(特設注意市場銘柄への指定をこのまま続けないと提案した事務局が、一転して逆の上場廃止を提案するとは考えられないので)、最初の議案に反対した2名の外部理事が上場廃止を提案するしかないのだが、残り5名の理事のうちの少なくとも外部理事1名を含む2名が賛成に回らないかぎり、上場廃止にならない。この残り5名の理事が最初の議案に賛成していれば、そのうち2名が新たな議案に賛成するなんて、到底ありえない。
今回の東芝の場合が、この状態に相当した可能性がある。つまり、特設注意市場銘柄への指定解除も上場廃止も、ともに決議できない状態に陥った可能性である。この状態とは、何も決議しなかったのと等しい。
まとめれば、新規上場を認めるか認めないのかの決議は単純であり、二者択一である。これに対し、東芝のように特設注意市場銘柄に指定された企業への対応は単純に決まらない。二者択一ではなく、宙ぶらりんという中間の状態がありうる。
法律をはじめとするルールの制定時点において、特設注意市場銘柄への指定という中間的な措置を想定していなかったのではないか。このため、上場廃止の意思決定が手続き上も難しくなったと考えたい。

2017/10/12


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