川北英隆のブログ

ESGと投資哲学の欠如

ESG投資、つまりE(エコ、環境)、S(働き方などの社会性)、G(ガバナンス、企業統治)に着目した投資がブームである。先日、某所で講演をしたところ、直接の依頼主だったグッドバンカー筑紫社長から感想めいた発言があり、「そうやった」とある事実を思い出した。
その筑紫社長の感想とは何か。2003年当時、政府や公的年金がESG投資(かつてはSRI投資=社会的責任投資と呼ばれていた投資スタイル)に対して示していた非常に強い拒絶反応である。それと、現在の「のめり込み」との間の極端なギャップである。
筑紫社長が言うには、この講演のために過去の記録を探していたところ、今から15年程前の記録が出てきた。そこには、当時の公的年金と監督官庁だった厚労省とが、「SRI投資のように、企業選別して投資することは到底評価できない」(この言葉は僕の記憶)と公言していた事実が書かれていた。
正確に書けば、SRI投資とはダメ企業を選び出し(ネガティブチェックを行い)、その企業を投資対象から外す投資スタイルだと思われていた。たとえば、たばこ会社、兵器製造会社、アパルトヘイト関係会社など、表面的事実だけで外す動きである。
当時の公的年金は投資理論(モダンポートフォリオ・セオリー、MPT)を金科玉条とし、信奉し、投資市場をできるだけ広く設定するのが正しいと信じていた。とすれば、ネガティブチェックで投資対象を外す行為は大いなる間違いである。当時のアメリカの投資家がそうであったから、それを単純に踏襲しただけと言ってもいい。
ところで今の公的年金、とくに年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の投資部門はこの数年、ESG投資という正反対の方向に急に舵を切った。
グッドバンカーのように20年間ESGに関する第三者的な調査を行っている企業からすれば、GPIFの方向転換は大歓迎のはずなのだが、筑紫社長の鋭い直感が、何かを嗅ぎつけたのかもしれない。何しろ、筑紫社長は福島原発事故の前に東電を、不正会計事件が発覚する前に東芝を、何か変だと直感し、それを外部に公表していたから。
それはともかく、GPIFが180度に近く、それも急に方向転換したものだから、世の多くのアセットマネジメント会社は大わらわである。これもまた変である。僕も15年間、客観的な立場から日本の投資業界を観察してきたが、つい数年前まで、「SRI、異端だね、ふん」という態度が大多数だったから。
僕には直感力がないものの、少しばかりは一貫した投資哲学を持っているとの自負がある。この視点からして、日本の投資業界には(投資業界にかぎらず日本の社会全般と表現するのがいいだろうが)、総じて定見がないと思う。このため、投資理論に振り回されたかと思うと、今度はESGに振り回されている。
「社会に対してどう貢献したいのか」、「社会に対する投資の役割とは何か」、「現実の投資市場とは何か」、「投資理論と現実とは何が異なるのか」、「現実的かつ社会的に望まれる投資行動とは何か」、これらを自分の頭を使って考え、確立し、行動に移さなければならない。すぐれた投資家になるのに最低限必要な条件である。

2018/02/22


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