川北英隆のブログ

逃げろと行政が逃げる

九州南部が梅雨の大雨に見舞われた。火山灰が多い地形であり、それが観光地としての南九州の魅力なのだが、同時に雨にも弱い。土砂災害の危険性があるため、避難指示が相次いだ。
ニュースによると(最終的なものかどうか確認していないが)、鹿児島市内全域で59.5万人に対し警戒レベル4、避難指示(緊急)が発令されたという。霧島市でも、やはり市内全域の12.5万人に避難指示が発令されたという。
毎年の行事的になっているが、テレビではアナウンサーがヒステリックと思えるほどに「避難してください」と叫んでいたらしい。それと、「避難指示が発令」という意味は、「逃げろ」と命令するのと同じである。ややこしい表現をせず、ダイレクトに言えないのか。
一方で「自分の命は自分で護ってください」とのアナウンサーの言葉も今年は気になった。「逃げろ」と「自分で護れ」とは、相容れない部分がある。
考えてみれば鹿児島市内の住民59.5万人が一斉に避難したとして収容できる建物があるのだろうか。とくに、市街地が問題である。テレビでは、近くに避難したところ、別の避難場所を紹介された例も放送されていたらしい。
大雨の避難は津波の避難と異なる。津波の場合、建物がなくてもとりあえず高台に避難すればいい。家が流されなければ、やがて戻れる。大雨の場合は建物がないと、避難の方法がない。それを承知で(つまり60万人近い住民が避難したとして、全員収容できる施設を確保しつつ)、避難指示を出したのだろうか。住民が、とくに老人が大雨の中を右往左往すれば、病気になり、かえって命の危険にさらされかねない。
鹿児島市や霧島市の行政実態がどうなっているのか知らない。梅雨や台風の大雨に際してどの程度になれば避難すべきなのか、避難するとすればどこに行くのか、行政として日頃から住民と個別に情報交換することが必要である。ネットでざっと調べたかぎり、行政が日頃からそこまで住民とコミュニケーションをしている様子はなく、「避難しろ」と言われた住民が困惑してしまったような書き込みもある。
最近の行政の動き方から感じるのは、「何かあった場合、行政の責任を追求されると困ってしまう」との姿勢である。だから過剰にルールなるものを作り、過剰な書類を書かせ、過剰に指示してくる。それも危険な状況が生じた時に突如として、行政側の立場として「思いつく」ことが多い。
テレビもそうだろう。呑気にバラエティ番組を流していると特定の視聴者から文句が出るのか(何もない状態でも、しょうもないと思えるが)。ニュースであっても、被災に関係ないものを流すのはもちろん、被災に関係していても現場中継だけでは文句が届くのかもしれない。
でも、テレビ局として、「そんなの(大雨なんか)普通の関係しかない」でいいのではないか。そんな特定のニュースだけがニュースではない。テレビが「逃げろ」、「自分の命を護れ」と叫んだところで、それは行政の「逃げろ」に輪をかけて無責任である。だから事実を淡々と伝えればいい。
「逃げろ」と叫び、指示を出すのは、マスコミや行政としての「逃げの一手」でもある。ましてや「自分の命を護れ」は、判断力の鈍った老人ならともかく、あまりにもお節介というか、自分自身の逃げに徹した発言だと思う。責任を全うしたようにみせかけ、実は責任逃れをしている。このように考えると、ますます可哀想なのは、どこにもまともに対処してもらっていない被災地とその周辺の住民である。

2019/07/06


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